最強男 | ナノ


▼ 7

「あ……」
肝心な事を聞き忘れ、ドアを開け千里とぶつかった。

「おっと」
千里が仁を支える。

「どうした? 淋しくなったか? 目、真っ赤にして」
慌てて顔に手をやる。

ぽんぽんと千里の大きな掌が仁の頭を叩いて、抱き寄せた。

「悪かったな、1人にさせて」
「こ、子供じゃないんだから大丈夫だよ」
千里の胸に収まりながらも仁は文句を言った。

「ちょっと、暇だったけど。日立さんと少し話したし……」
「何だ、日立が来たのか」
「千里、日立さんに用だった?」
「いや、何の用でお前に会いに来たのかと思ってな」
「“日立”の免許皆伝の話」
「ああ。その話か。ゆっくり考えろ」
「ん……」


「いつまでくっついてんだよ」
弾の不機嫌な声に仁は千里から離れた。

「仁、座れ」
どかりとソファーに座り弾は手招きした。
千里が仁の背を押す。
促されるように仁はソファーに座った。

「ここでいちゃこくな。おれがかわいそうだろ、独り身なおれが」
その台詞にふっと笑いが漏れる。

「笑うな? 仁」
「ごめん」

「で、仁はどこに行きかけたんだ? 部屋から出ようとしてただろ」
「あ……」
言いかけて口をつぐむ。

「いいんだ、その、千里まだかなーって」
仁は笑ってごまかした。

千里がごまかされたと気付かないはずはない。が、千里はそうかと言っただけだった。

千咲に聞きたかった。今日のいつなのか。
けれど、それがいつでも、仁はやるべき事をするだけだ。
今の仁には千里を守る力なんてないのだから。


「千里とさ、話してたんだけど、仁をいろんな組員の下に付けてみようかって話しててな」
「えっ」
「いろんな経験して来いって意味でな。で、圭介って奴の下に付けるから。来週から圭介とこな」

仁の意見もなくそれはすでに決定事項だった。

「将来千里の側にいるなら、いろんな奴らからいろんな事、吸収して来い」

「……その圭介さんて、どんな人?」

千里と弾が顔を見合わせる。

「影のナンバー2、だな」
「表がおれなら裏が圭介だわ」
ソファーテーブルに足をかけ、弾が答える。


そこでがん、と音をたて扉が開いた。

黒いストライプのスーツに身を包んだ青年。

「圭介」
「おぅ」
弾に手を上げ、千里に向き直る。

「お久し振りです。組長」
「悪いな、忙しいところ」
「いえ。組長には及びません」
圭介は首を振った。

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