▼ 5
「日立さんが、千明を主人にしたのはいつ?」
「高校を卒業した時だ。日立は18で成人として認められる」
「ふうん」
他に質問は?と日立は聞いてくる。
「千里につかなかったのはどうしてですか?」
「千里? なんで千里?」
「年同じだし、仲いいでしょう?」
「んー。俺、千里より千草さんに付こうと思ってたけどな。長男だし。きっと東雲を継ぐのは千草さんだと思ったし。まぁ、千草さんが継ぐ、千里が継ぐ、千早が継ぐと、東雲も大変な事もあったからな。まっ、こいつだと思える主人というのは現れるものさ」
「そういうもの……ですか?」
「そうだな。仁の場合は主人はいるだろう? あとは主人に見合う自分になればいい。今のままじゃ千里は守れないのはわかってるだろ」
守りたいと思うだけじゃ駄目なのだ。実際守る力がないと。それは仁にもわかっていた。
「俺は、“日立”の修行をしないと千里を守れませんか?」
「千里は東雲のトップだ。命を狙う輩は多い。普通の民間人ならいいかも知れない。けど、あいつは組長なんだよ、仁。千里といたいなら、千里とヤクザの中に入って行くなら学んだほうがいいと思う」
吸っていた煙草を灰皿に押さえつけ、仁は日立を見た。
「2・3日考えさせて下さい」
「いいよ。さてと、帰るかな」
「日立さんてどこに住んでいるんですか?」
「今は実家。ここ、別宅の裏にある。千明が退院したら2人、本宅でちと世話になるから、よろしくな」
「あ、はい」
日立が家に戻ってしまえば仁はまた1人で千里を待つ事になる。
本宅はとても静かで、仁に考える時間をくれた。
今の仁には力はない。千里を守るすべもない。
「日立の力で千里さんを守る事ができるなら……」
日立の学ぶべきものを自分のものにしたい。
千里の為に。
“日立”を学べばおのずと東雲を知る事が出来る。
「貴方を知りたいから、貴方の周りも知りたいと思うよ」
その小さな呟きはその部屋だけが聞いていた。
「あー」
あまりに時間がありすぎて仁は時間を持て余していた。
「暇……」
千里は弾と何を話しているのか、一向に帰って来ない。
「チィ、連れてくれば良かったなぁ」
んー、と伸びをしてソファーに座り直した。
prev / next
bookmark
(5/20)