▼ 14
「ま、それもあるかもな。けど、やっぱり親ってものは見てるものだ」
仁は親にはなったことがない。だからそこの所はよくわからない。
だが。
「親って日立さん、子供いるんですか?」
「いないよ? 結婚してるように見える?」
仁は首を振る。
「だろ?」
「でも、子供の1人や2人いても驚きません」
「いないから」
日立は笑いながら否定する。
「日立さんなら、女性がほっとかないでしょう?」
「千明が牽制してたからな、そうでもない。千里や棗のほうがもてたな」
「千里さん、やっぱりもてたんだ」
「もてたね、あいつは」
「ふうん。千里さんが俺に片思いしてたってほんとなんですか?」
日立がちらりと千里を見て頷いた。
「高2の夏休み前だったか、お前に一目惚れ。それから千里はお前一筋のはずだ」
「俺、千里さんに会った記憶ないんだけどな」
「道ですれ違ったとか言ってたな。詳しく聞きたきゃ本人に聞け」
「なんか恥ずかしくて、聞けない」
「その内ゆっくり聞いてみろよ。そういうのは聞かなきゃ答えないぞ、あの男は。あいつ意外と純情だからな」
千里さんが純情?
見えない見えない、と首を振る。そんな仕草に日立が言った。
「仁、千里が初恋なんて言わないよな」
「言いません、さすがに」
「だよな。でも千里はお前が初恋の相手らしい」
「俺が?」
「ああ。だから千里はすげー。初恋は実らないって言うからな」
「実らせた」
「そ。すげーよ」
仁の初恋といえば中学生の時。隣に座っていた女の子だった。
初恋の女の子は今何をしているんだろう?
初恋なんて遠い過去の話。
けれど、千里はそうじゃないのかもしれない。
千里の初恋は仁なのだから。
千里さん、高校生の千里さん、貴方はどうして俺を選んだの?
どうして一途に想っていられるの?
ぼんやり花火を見ていれば、千里に声を掛けられた。
「どうした?」
「ううん」
なんでもないと首を振って、手を伸ばす。
千里の手が伸び立ち上がるのを手伝ってくれる。
「千里さん、幸せって満たされてる事をいうのかも。今幸せ?」
「酔ったか?」
「幸せ?」
再度聞けば、千里はああ、と返事を返した。
「俺も、幸せ」
ぐりぐりと千里の胸に頭を押し付けて仁は照れ笑いを隠した。
prev / next
bookmark
(14/14)