▼ 4
千草の煎れたミルクティーを飲み、マフィンを頂く。
「これだけで優雅な気持ちになれる」
これまでの生活にこんな一時がなかったから余計にそう思う。
それから数時間後、千里と弾、珠希がリビングに顔を出した。
「お疲れ様」
千里が仁の横に座る。
弾は向かいに座った。
「もー、やだ。あたし、来月から幹部会出ぇへん」
珠希は千里の反対側の仁の隣に腰をおろすとわめいた。
「そう、言うな。珠希」
千里がふぅと息を吐く。
「おれ、部屋戻るわ。あ、仁。……来いよ」
「え? うん」
「千里。仁、借りる」
「ん」
弾の部屋は広々としていた。千里の部屋よりずっと広い。倍以上ありそうだ。
「千明の事だけどな」
「あ、うん」
「東雲組が犯人を追う事はない。幹部会で決まった。たぶん警察も厚也を捜しきれず、捜査は打ち切りになる。千早が言うには犯人に繋がる物的証拠がないそうだ」
「そっか……。ありがと、弾」
仁は礼を言った。
「あとな、仁。千里はたぶん気付いてる」
「まさか」
「一応、組長だぜ? 知らないっていうのもおかしな話だと思わないか?」
「けど……」
「まぁ、一応知ってるかもっていうのは頭に入れとけ」
「わかった」
頷いた仁に弾は言う。
「ほとぼり冷めたら厚也の家にまた、バランタイン呑みに行こうぜ」
「うん。……千明、も?」
「おれいたら、嫌がるんじゃね? 嫌われてっからな」
「嫌われるような事、やったの?」
「さぁ? 覚えてない」
弾は首を傾げる。
こんこんとノックの音。
「どうぞ、開いてる」
顔を覗かせたのは千歳だった。
「そっちに行ってもいい?」
「おいで、千歳」
仁が言うと駆けて来た。
「弾ちゃん、仁取らないで」
「仁は千歳のじゃねーだろ」
「千歳のだもん!」
ね?と、首を傾げて見つめて来る千歳に曖昧に返事を濁した。
「もてるな、仁」
「あはは」
なんとなく笑って誤魔化す。
「なんであんな事言った?」
「あんな事?」
「ずっと好きでいて」
「ああ、厚?」
くすりと笑って仁は横にいる千歳を抱き上げた。
「厚はさ、俺の事、すごく執着してて。多分俺の事好きなんだろうって学生の頃思ってた。この前告白されてやっぱりって」
「で?」
「返事はいいって。答えられないって知ってるんだろうね」
prev / next
bookmark
(4/14)