最強男 | ナノ


▼ 1

彼女は言った。
――幸せになろうね。

それになんと答えたんだっけ?





目が覚めたのは明け方だった。

横には千里の寝顔があった。
顔を見たとたん、思い出す。
「千里さんと……」
1人照れて横を向く。

千里と身体を重ねて、何度も果て、気を失って今に至る。

千里は起きる気配はない。
だからそっとベッドを降りた。

「……だる」


リビングに顔を出せば、男女が振り返った。
「おはようございます」
千草が少し慌てたように仁に朝の挨拶をする。

千草の隣の女性が仁に頭を下げて笑いかける。

「はじめまして。松井佳乃です。仁さんでしょう?」
「はい」

「彼女、僕の彼女なんです」
「すみません! お邪魔ですね、俺」
「いいですよ。そろそろ渚が起きて来ますし」
ふわりと千草が微笑む。

「私、帰るわ。千里君が起きてきたらまた言われちゃう」
佳乃が肩をすくめ手を振った。
千草は手を振り返す。
佳乃は仁にも手を振った。


「あれで小児科の先生なんです。夜勤明けで会いに来てくれまして」
はにかみながら千草は言った。

小柄な女性。とてもかわいらしい感じの人だった。

「お医者さんですか。すごい。お互い忙しいからなかなか会えないでしょう」
「だからこうして会うんです」
「そっかぁ。佳乃さんて千里さんに会ったことあるんですか?」
「ありますよ。会う度に結婚すればと。でも簡単ではありませんから。彼女の家は堅気の家ですしね」
「あー。ただでさえ親に挨拶行くのは勇気いりますからね……」
「そうですね」
くすりと千草は笑う。


「おはよーっス」
渚が顔を出す。

「仁、早いな。ま、飯も食わずに寝たら目が覚めるのも早いか」
ばたばたと厨房に入っていく。

「千草、今日は佳乃さん来なかったのか?」
厨房から声が上がる。

「来ましたよ。千里に会いたくないのか早々に退散しました」
「そっかー」


「俺がなんだって?」
千里の声に振り返る。

「佳乃が来てたって? 逃げやがったな」
「千里が結婚をせかすからでしょう?」
やれやれと肩をすくめ千草は仁と笑いあう。

「千草、ヤクザが堅気の家の女を嫁にして何が悪い。向こうの親の心配もわかるがな、二の足を踏んでるだけならとっとと挨拶に行け。迷っていたって、ヤクザのお前と堅気の佳乃の関係はずっと変わらない。大事なのは千草と佳乃の気持ちだ」
「そうですね。腹をくくりましょうかね……」
朝の光の中、千草が呟いた。

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