▼ 12
とりあえず勝手に千里のクローゼットを物色し、シャツを着ると部屋を出た。
シャツが擦れて敏感になっている背中がなんともいえない。
食堂に繋がるキッチン、どちらかといえば厨房に渚がいた。
「起きたか」
「あ、うん。おはよ」
「っはよ。なんか食う?」
「んー、いい。あと1時間すればお昼だし」
「そうか? 昼な、日立達が来るから少々豪華だぜ?」
「日立?」
「昨日事務所で日立に会わなかったか? 日立くふり」
「くふりさんて日立が名字? じゃあ会ってる」
「組長が日立に会わせないわけない。日立は事務所のドンだからな。そのドンの手綱を握るのが千明だ」
「へぇ」
そこへ千草が顔を出した。
「おはようございます。千歳のお迎え代わって貰ってすみません」
千草はにっこりあいさつを返した。
「千歳が仁さんを捜してました。仁さんと行くと朝から騒いでましたよ。帰って来たら声を掛けてあげて下さい」
「あ、帰りは迎えに行きます。俺」
「千明達が来るので家にいて下さい」
昼過ぎ、千明と日立くふりがやってきた。
「千明」
「よっ」
千明が右手を上げる。
千明のひとなっこい笑顔に千早を思い出す。
千明の後ろにいるくふり……日立に頭を下げる。
「仁、千里は?」
「リビングに」
「そっか」
勝手知ったるという感じで日立は奥へ入って言った。
「棗さんとあの2人、同級生で幼馴染みなんだよ」
千明は千明で奥へ歩いて行く。
「来いよ、仁。積もる話、しようぜ」
千明が入った部屋は普段仁が使う部屋の2階だった。
「オレの部屋。階下が千早兄の部屋。今仁が使ってるんだって?」
「センパイの部屋なの?」
「あれ、仁、千早兄を知ってる?」
「俺、元刑事」
「マジかよー」
千明は頭をがしがし掻いた。
「……元気してた?」
「ん」
「そうか。気にはなってたんだ、仁の事。いきなりオレいなくなったからさ」
「認知されたから……だろ」
「まぁそうなんだけど。行き先がヤクザの家だろ、言いにくくてな」
「……おばさんは? 元気?」
聞いた途端、千明は口をつぐんだ。
「死んだよ」
千明の感情のない声が耳に届く。
「バカな女」
「……千明!」
声を上げると千明はころっと顔を変えた。
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