最強男 | ナノ


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「刑事が無断で一月休んだんだ。クビになってるだろ」
千里がのんびり、意地の悪そうな顔で笑った。
「そんな…。千早さんに連絡っ」
「お前の携帯ならあの日の雨でメモリーぱーになってる」
「署に連絡するしかないか。え? 雨?」
雨なんか降ってただろうか、仁は首を傾げた。
「記憶にないか? まぁいい。とりあえず慣れるまでは千歳の相手でもして、千草から仕事を教えて貰え。
どうせ借金、払えないだろうからな」
「俺は!」
千里が仁に近付くと顔を近付けてきた。
「刑事に復帰出来たとしよう。借金、返せるのか?」
「それは……」
「ここにいたら金には不自由しない。
それに俺はお前が気に入った。逃すつもりはないからな」
「監禁でもするのかよ」
ふっと千里が唇の端を上げた。
「それもいいな。でもそんな必要はないと俺は思ってる。自由に屋敷を歩きまわるなり外で買い物するなりしたらいい」
「……ここにいるだけで借金チャラにって、なんか企んでる?」
「企んでるさ」

「ッん」
噛み付くようなキスをされた。
唇がジンと熱くなる。
「やっ、何っ!」
千里を押しのけようと仁は腕に力を入れる。けれどびくともしない。
「ちさ、と、さん!」
千里は構わず仁の唇を犯していく。
「や、だっ」
千里はぽんぽんと仁の背中を叩くと離れていった。

「お前の背中に龍を彫ろうか。朱い昇り龍の刺青だ」
「冗談だよな?」
「冗談だと思うか?」
問われて首を振った。
「1日やろう。ここに残ってヤクザになるか、出ていって借金漬けになるか。
どっちにしろお前を逃がす気はないからな」
「……」
千里はそう言うと食堂を出て行った。
ぽつんと一人取り残される。
ヤクザの家にしては屋敷内は静かで人の気配はない。
ヤクザの家というのは人相の悪いガタイのいい男達が沢山いると思っていた。

朝食を食べ終えると食堂を出てとりあえず寝ていた部屋に戻ろうと足を向ける。
ふと日本庭園に目がいく。

数時間、座って庭園を眺めていただろうか、仁はおもむろに立ち上がった。

「千里さんっ!」
屋敷内にいるはずの千里を探し始める。
「千里さん!」
「仁さん」
そこにあの日会った千早の知り合いだといった男が立っていた。
「組長は先程外出しました」
ふわりと微笑まれて仁は思わず微笑み返した。
「ええと……」
「千草です」
「千草さん、千里さんはどこへ?」

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