弱いということ









時は流れ、二人で住み始めてから早くも1年が過ぎた。季節はめぐり、また冬が訪れた。俺は無事就職口を見つけて社会人に、名前は高校3年になった。学校までは片道1時間かかる遠距離通学だが、環境が名前に合っているのか不思議と名前の容態は今までにないくらい安定していて、風邪なんか全く引かなかったし、見ただけでは原因不明の病に侵されているようには感じられなかった。
だいぶと俺の家のかっても分かったらしく、漫画本やゲーム、エロ本も普通に置くようになった。エロ本くらい隠せと指摘しても、男二人なんだから隠す必要ないと名前は笑う。使ってもいいぞと言われた時は頭を叩いてやった。
そんなこんなで俺たちの生活は順風満帆。毎日を楽しく過ごしている。




『マルコ、洗濯物干したよ』




「ありがとよい」




そうそう、名前は進んで俺の手伝いもするようになった。掃除、洗濯はもちろん、料理も隣でサポートしてくれる。おかげで時間短縮になるし、俺の時間も増えるし、良いことばかりだ。そして手伝いをしてくれた名前に対しての俺からの報酬は、1つの手伝いにつき1回のキス。最初はする度に恥ずかしがって照れていた名前も、最近では慣れてしまって、手伝いの報告に来ると目の前で気をつけてをして目をつむるようになった。
そして今も。早く、と言わんばかりに世話しなくかかとを上げ下げする様子は、だだをこねる子どものようだ。




俺は唇を軽く合わせると、今回の報酬な、と仕上げに頭をぽんぽんと撫でた。嬉しそうに口元を緩める名前は、次のお手伝いは?と仕事をせがんだ。しかしさすがにうちもそこまで汚れてはないし、名前をそんなに使うわけにはいかないし、もうやってもらう仕事はなくなってしまった。それを伝えると、少し拗ねたように目線を斜め下に反らした名前は、じゃあいいや、とソファーに飛び乗った。




「そう拗ねるなよい」




ソファーの上で膝を抱えてリモコンを握っている名前の隣に腰かけて肘で小突くと、名前はこちらには見向きもせずに、拗ねてねぇし、と返した。1年経ってもやっぱり子どもだな。微笑みながら俺がそう言うと、予想外に名前は真面目な顔でこちらを睨むと、リモコンは床に放って俺の方に体を乗り出し、胸ぐらを掴んだ。俺は子どもじゃねぇ!ムキになる名前が面白くて、そういうところもガキっぽいと笑ってやると、名前はギリッと歯軋りをした。いよいよ俺は、自分の一言が名前の逆鱗に触れたことを察した。




『おれはマルコのそういうところが大っ嫌いだ・・・!』




いつも人を馬鹿にしたみたいに笑うマルコが嫌いだ。そういう名前の瞳は激情から潤んでいた。
俺は不意に思い出した。名前には両親が近くにいない。というより、名前の近くには大人がいない。骨髄の移植手術をうけるには未成年の場合親の同意が必要だが、名前にはそれができない。本人はそれをかなり気にしているのだ。目の前で恋人を失い、死を身近に感じる恐怖。飄々とした態度でそれを誤魔化し、平静をよそおう生活は、幼い彼にとっては耐え難い苦しみであったことだろう。




「悪ぃ」




『っ、』




全部分かっているはずなのに、俺が分かってやらなきゃいけないはずなのに、そんなこととっくの昔に心得ていたはずなのに。自分の軽率な行動や言動が情けなく思い、俺は顔をふせた。すっかり喧嘩腰だった名前は俺の態度に驚いたのか、胸ぐらを掴んでいた両手を引いた。声をつまらせた名前は目に浮かんだ涙を袖でごしごしと拭うとソファーから降り、背もたれに体を任せる脱力した俺の肩に手を乗せると、申し訳なさそうな泣きそうな瞳で抱きついてきた。口にこそ出さないが、それが名前にとっての精一杯の気持ちだってことが、痛いくらい伝わってきた。俺は名前を受け止めると、膝の上に小柄な体を抱え込んだ。




ぎゅっと名前を抱き締める腕に力を込めると、名前は肩に置いていた手をそのまま背中の方に回した。名前、と小さく名前を呼ぶと、少し不安げに離れた距離。目の前にある涙のたまった瞳にいとおしさが一気に込み上げて、俺は名前の唇にキスをした。欲深い俺は、黙ってそれを享受した名前の後頭部を押さえ、今度はしっかりと唇を合わせ、うすく唇を開いて息を吐き出した名前の口内に舌を滑り込ませた。後頭部の髪を掴んで頭を傾けると、繋がりが深まる。遠慮がちに突き出された舌に自らの舌を絡めて、先端を軽く吸い上げる。ぶるっ、と体を震わせた名前は、苦しそうに眉を寄せて快感に喘いだ。




「名前・・・嫌なら言えよい」




俺は名前をゆっくりとソファーに押し倒すと、その上に覆い被さってキスを続けた。俺の気持ち的にはもうすっかりこれからセックスに持ち込む心づもりで、唇から首筋に、首筋からはだけた胸元にと唇を沿わせていった。白い肌に強く吸い付き、くっきりと赤いしるしをつけていく。頭の上では名前の焦燥感に駆られるような喘ぎ声まじりの吐息が聞こえてくる。俺は首筋を舐めながら、名前のシャツのボタンを外していった。4つぐらい外し終えた時点で薄っぺらい名前の胸板に軽く唇で触れると、俺の下の体はびくりと跳ねた。そして、小さく主張する胸の頂を固くした舌の先端でつついたとき、不意に名前の腕が弱々しく俺の頭を押し返した。




『ごめん、おれ・・・ちょっと体調悪いんだ』




上体を起こした俺とは視線を合わせずに、目を泳がせてぼそぼそとそう呟いた名前は、はだけたシャツを掴みながら恥ずかしそうに体を固くさせた。もう息子も元気になっていた俺としては寸止めを食らったようで正直辛かったが、名前の体調が良くないのならセックスはお預けだ。いくら最近は入院するほどの出来事がないとはいえ、体の弱い名前に性行為を強要することなんか俺にはできない。俺は名前の言葉に頷くと、仰向けの名前の手を掴んで体を起こさせ、一回だけ額にキスをしてシャツのボタンを止めてやった。ズボンの下で興奮を押さえきれない息子が一人もんもんとしていたが、そこはぐっとこらえ、体調が悪いならばと自分の羽織っていたカーディガンをなで肩にかけた。
最近ちょっと気分が悪いことがある、とうつむいた名前に、駄目なら早めに病院に行けよい、とおせっかいを焼きながら頭を撫でる。さっきの行為が恥ずかしかったのかちょっと気まずそうにした名前は、少し大きいカーディガンの裾をぎゅっと握ると、意を決したようにこちらに視線を寄越した。




『おれ、ちゃんとマルコのこと好きだから!』










弱いということ



(つまるところ、それって優しさ)









continue...





20111206


九話!
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次回、夢主の容態に変化が…!




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