小説(短編) | ナノ
世紀末のエンターテイナー(エース/ 男受主)







ファーストネームはここのところずっと、朝から晩まで泣いていた。すすり泣く声が聞こえなくなるのは、泣きつかれて眠りにつく、夜中の2時過ぎ。それまではずっとずっと泣いていた。
皆はそっとしといてやれ、と言うけれど、弟のルフィと同い年のファーストネームは、本当の兄弟みたいでほっとけない。





今日もファーストネームは泣いていた。甲板の隅っこ、酒樽の影で、誰にも見つからないように隠れて泣いていた。まあ俺はそんなこと、もう何日も前から知っていたんだけど。
すすり泣く声に近付くと、俺に気付いたファーストネームは目元を袖でごしごしと拭い、床に視線を落とした。俺はファーストネームの隣に腰を下ろすと、うつむく顔を覗き込んだ。





「男がめそめそと泣くな」





小さい頃は泣き虫だった弟にはよくそう言って怒鳴ったっけ。今回はあやすように、なるべく優しく声をかける。小さく上下するファーストネームの肩に腕を回すと、ぐっと自分の方に引き寄せる。すると、ファーストネームのズボンの後ろのポケットから、折り畳まれた新聞の切り抜きが出てきた。俺はくしゃくしゃのそれを手にとり、丁寧に広げた。





『勝手に見るなよ・・・!』





真っ赤に腫らした目で俺を睨むファーストネームの手を交わし、記事に目を落とした。写真には、焼き払われて灰と化した街が写っている。これはいったいどういうことだろうか。文字を追うと、ファーストネームの故郷が山賊によって焼き払われたということがわかった。小さな島は全焼し、脱出用のボートは山賊に使われたため、生存者はいなかったらしい。





俺には物心ついたころから両親がいなかったから、故郷の家族がいなくなったときにどんな言葉をかけてもらうのが一番うれしいか分からない。とにかく悲しいんだろうな、とか、辛いんだろうなっていうこと以外は、家族を亡くすということがその人にとってどんなことか、なんて特に分からなかった。



不意にさっき、男がめそめそと泣くな、と言ったことを思いだし、よくなかったかもしれない、と後悔した。





『・・・もう、そっとしといてくれよ・・・』





クルーからも言われた、そっとしといてやれ、という言葉。でも、そうすることの出来ない俺が確実に、心の真ん中に居座っていた。
俺は立ち上がるとファーストネームの目の前にしゃがみこみ、きょとんとしている目の前の顔を両手でがっしりと掴み、勢いに任せて、半開きの薄い唇に自分のものを押し付けた。





『・・・なっ・・・・エース・・・お前、』





顔を離すと、顔を真っ赤にしたファーストネームは、口元を手の甲でおさえて俺を睨んだ。それからしばらくの間沈黙が続き、突然ファーストネームが吹き出した。今度は俺がびっくりしてしまった。
泣きすぎて頭がおかしくなったのか、と思ってくすくすと笑うファーストネームを見ていると、なんだかこっちもおかしくなってきて、一緒に笑った。
エースが急に変なことするから、と笑いながら、ファーストネームは目尻にたまった涙を指先で拭った。





「やっと笑ったな」





そう言ってとびっきりの笑顔でファーストネームの頭を撫でると、同じように笑顔になったファーストネームは、ありがとう、と小さく呟いた。それから、また泣いてしまった時は今日みたいにおれを笑わせてよ、と言った。
思わぬリピーターの出現に、俺の心は小躍りした。












世紀末のエンターテイナー




(最高の笑顔を君に)






fin





20110815


今度は攻めエースです!かっこいいエースは皆が大好きですよね!





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