小説(短編) | ナノ
きす、みー!(サッチ/男受主)








最近、俺に恋人ができた。結構年下の弟系で、童顔だ。海に出たのもまだ最近で、右も左も分からない世話のやける、白ひげ海賊団の末っ子。そのくせして生意気で、口答えばっかりするもんだから、よく兄弟に叱られている。そんな奴が、俺の恋人だ。もともと可愛いなぁ、と思って可愛がってたのは俺で、アプローチしたのも俺。特別にデザートを作ってやったり、部屋に招いてみたり。早くしないと可愛い弟が誰かのものになってしまうんじゃないかと、あの時は自分も必死だった。それから数ヶ月後、俺はめでたく告白を成功させ、独り身を脱出したのだ。
付き合ってからは順風満帆。毎朝早起きして仕込みをする俺に、ちょっとだけみんなより早起きしたファーストネームが、おはよう、と柔らかく微笑んでくれる。その笑顔が俺だけに向けられていると思うと、嬉しさで頬が緩む。週に2回、一緒に陽の当たる甲板でする昼寝は、もう習慣になっている。俺にとっても至福の時だ。



クルーからの対応も少し変わった。年甲斐もなく冷やかしてくる奴もいれば、素直に祝福して俺たちのことを気づかってくれる奴もいる。ちなみにエースやハルタは前者で、マルコやイゾウは後者だ。そんな環境で、俺の心は幸せに満ち満ちていた。
しかし、それは俺だけだったらしい。大切な話がある、とファーストネームに呼びだされたのだ。唐突な呼び出しとファーストネームの不機嫌そうな表情に、俺は自分が何かファーストネームの気にさわることをしたんじゃないかと必死でここ最近の生活を見直してみた。だが、俺はいたって普通の生活をしていたのだ。何のへんてつもない、ごく一般的な白ひげ海賊団4番隊の生活を。
ファーストネームは俺の部屋で待っているらしい。俺は言われた通りに、風呂に入り終えると駆け足で自らの部屋に向かった。どきどきする心臓を押さえつけて扉に手をかけ、引く。中を覗くと、ベッドに腰かけて足をバタつかせるファーストネームがいた。俺を見つけたファーストネームの表情は、一変に険しくなる。長年過ごしたはずなのに、まるで自分のじゃないような空間に、思わず軽く会釈してから足を踏み入れる。ポンポン、と叩かれたファーストネームの隣に、黙って腰かける。



『おれが何で呼び出したか分かる?』



なんだこの状況は。ファーストネームは腕と足を組んで軽く貧乏揺すりしながら、膝に手を置いて自分でもおかしなくらいしゅんとしている俺を見下している。ファーストネームは爪先でコツコツと床を叩きながら、しかめっ面で俺を見つめる。いい加減視線がいたい。分かりません、と俺が敬語で答えるとファーストネームは呟くように小さく、なんでだよ、と吐き捨てると、黙ってしまった。半乾きの髪がひんやりとして、少し肌寒い。沈黙のせいで、いつもは聞きなれて耳には入ってこない波の音が、今はやけに大きく聞こえた。



『待ってんの・・・おれは・・・』



腕組みも足組みもやめて、どこか寂しそうな表情のファーストネームは、サッチがキスしてくれんの待ってるんだよ、と恥ずかしそうに呟いた。一回言うとふっきれたらしいファーストネームは、どれだけ待っても抱き締めてもくれないサッチは意気地無しだ、と続けた。俺はファーストネームの本音に驚き、そして歓喜した。ファーストネームがそんな風に思っていただなんて。しかし、彼が言うように俺が大好きなファーストネームに手を出さなかったのには、ちゃんと理由があるわけで。
こんなこと本人に言えたもんじゃないが、ファーストネームに手を出せない原因はファーストネーム本人にあるのだ。ただののろけだと言われるかもしれないが、ファーストネームは可愛すぎる。顔も性格も、俺の腕にすっぽりおさまりそうな華奢な体も、ちょっと強引で生意気な行動も、全部が大好きすぎるのだ。だから、ファーストネームにキスすることや体を重ねることも、自分の欲求全てを寸止めしているのである。突き進んでしまえば、たぶん歯止めがきかなくなるから。そんな俺の苦労も露知らず、ファーストネームは恨めしそうに俺を上目で睨むと、ずいっと体を寄せてきた。



『サッチが悪いんだからな』



ファーストネームの言葉を聞いた次の瞬間には、俺は後頭部に添えられた細い腕に引き寄せられ、唇を塞がれていた。俺の手に重ねられたファーストネームの小さな手が汗ばんでいて、ああ、こいつも緊張してるんだなあ、と思うとファーストネームを可愛いと思う気持ちが増し、自分の高ぶる感情を押さえきれなくなった。唇を離そうとしたファーストネームの後頭部に今度は俺が手を回し、強く引き寄せ、驚きから薄く開いた唇から、舌を滑り込ませた。苦しそうに息を詰まらせながら俺の肩を掴む細い腕を取ると、俺はいったん唇を離し、すぐに体を反転させ、ファーストネームをベッドに組み敷いた。



「ファーストネームが悪いんだからな」



俺はさっきファーストネームから言われた台詞をそっくりそのまま返すと、待って、というファーストネームの制止の声も聞かず、強引に唇を重ねた。











きす、みー!



(サッチのエッチ!)








fin





20111225


お待たせしました!
これで相互記念小説最後になります(´ω`*
依利様には今後いろいろとお世話になると思いますが、よろしくお願いいたします!






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