小説(短編) | ナノ
えれきてる(シャンクス/男受主)






船長室。俺の座る椅子の前を陣取る立派な机の上には新世界の地図が広げられていて、それを囲むように、重役の面々が集まっている。いま、新世界では懸賞金1億を越えるルーキーたちがたくさん航海している。もちろん、ルフィも―――。そして、新たな冒険に胸を踊らせる若者同様、俺たちもこれから続く旅に期待している。今日はそのための、これからの航路を決定する大切な会議を開いているのだ。俺から大きな信頼を買う副船長のベンは、紙の束を地図の上に広げた。手配書。最近名を上げた連中だ。



「この島はもう他の海賊団が拠点にしている。次、停泊するならここだろうな」



俺たちは頭のいいベンの言葉に賛成し、皆一様に首を縦に振った。だがひとつ問題がある。そう言ってベンが指差したのは島の周辺の海。話によると、そこにはやっかいな海流があるらしい。そりゃあ誰も寄り付かないわけだ。別のルートを選択するならばまた航路を変えなければならないし、そのまま進むのも、船のことを考えると気が引ける。そうだなあ、と背もたれに体重を任せると、俺は首をひねった。俺はしばらく地図を見渡したあと、予定していた島からは少し離れるが、ベンによって軽くチェックされた後がある島を見つけた。ここは駄目か?そう尋ねようと地図の上まで右手を浮かせた瞬間、船長室の扉が開かれた。視線がいっぺんにそちらに集まる。そこにいたのは、この船でも最年少、20代のファーストネームだ。



「悪いなファーストネーム、今は大切なことを決めているところなんだ、用なら後にしてくれないか?」



入り口で立ち尽くすファーストネームはどう見ても不機嫌そうで、うつむきぎみで俺を睨んでいた。ベンが説得するように今の状況を説明するもそれはファーストネームの耳には届かず、ファーストネームはずかずかと部屋に踏み入ると、止めようとするベンを尻目に俺の方に向かってきた。俺は黙ってファーストネームの様子をうかがう。すると俺の目の前に立ったファーストネームは、無言でいきなり俺のシャツを掴むと、思いっきり自分の方に引き寄せた。見ると、片足は俺の座る椅子にかけられている。至近距離で、あまりにも真剣な顔で俺を睨むもんだから少し可笑しくなって、いったいどうしたんだ、と苦笑いをしながら尋ねてやった。俺がどれだけふざけた空気を醸し出しても、ファーストネームはやっぱり真剣な表情で。



『“好き”って言えよ、おれを』



唐突に俺にそう命じたファーストネームに、うまく思考がついていかない。ベンは右手で頭を抱えて深いため息を吐いているし、ヤソップも呆れている。数秒間脳みそが機能しないままじっとしていると、ファーストネームは歯噛みをして俺を揺さぶった。おれが好きなら言え!噛みつくようにつっかかってくるファーストネームは、周りに頭の上がらない幹部がいるにも関わらず、容赦なく俺の首元を締め上げた。まったくよく分からん。大の大人がまるで駄々をこねる子どものようで、情けない。とりあえず今は取り込んでるから後でな、そう言って胸ぐらをつかむ細い腕に手をやると、ファーストネームはさらに機嫌を悪くした。



『おれよりも航路かよ!』



そりゃあそうさ、船長は乗組員全員の運命を背負っているんだから。言ってやりたいのは山々だが、ここで余計なことを言うとまた面倒なことになるので我慢だ。しかし俺が言いたいことを我慢したからといって、それでファーストネームの気持ちがおさまるわけではない。よく分からないがファーストネームは、なんで一番はおれじゃないんだ、とか、シャンクスはおれが好きじゃないのか、とかいろいろ怒鳴り散らし、俺を威嚇した。いったい俺が何をしたというのだろう。
このままでは会議が進まないし、待たせているみんなにも悪い。何かファーストネームの納得する理由でもつけて追い返さなければ。そう考えた俺はファーストネームの腰にそっと触れると、なるべく困った表情で、語りかけるように優しく言い聞かせる。



「ファーストネームのことは好きだが・・・コイツらの前で言うのはさすがに恥ずかしい」



これが終わったら好きなだけ言ってやる。だから外で待ってろ、な。と小さい子どもに言い聞かせるようにゆっくりと話す。するとファーストネームは眉間のしわを深めた。なんだなんだ、まだ引かないのか。ガキの頃から諦めが悪いのは船一番だったファーストネームの性格は、たぶん俺が誰よりも知ってる。そんな負けず嫌いなところを買って、まだ大人というには未熟な思春期のファーストネームを船に誘ったのは、他でもない、この俺なのだから。だからこそ分かるが、ファーストネームは誰よりも嫉妬深い。独占欲が強くて、恋人が出来たとすると、その人が自分以外を見てるだなんて信じられないというような男。俺の何が気に入らないのかは知らないが、これはなかなか離してくれそうもない。



わかったわかった、そうファーストネームをなだめると、俺は軽く、目の前で毛を逆立てる忠犬を押し返して立ち上がった。俺が見下ろすかたちになり、ようやくファーストネームはシャツから手を離した。ああ、ヨレヨレになってしまったじゃないか。俺は乱れたシャツを軽く整えながら、ベンに苦笑いを向けた。すまない、少し席を外す。そう一言声をかけてから隣を通りすぎようとしたところで、早く戻れよ、と呆れた声が背中に突き刺さった。俺はファーストネームの腕を引き、船長室を後にした。



そんなに怖い顔をして、いったいどうしたっていうだ。俺が心底困り果てた表情で尋ねると、今まで威勢よく突っかかってきていたファーストネームは、それまでとうってかわってしゅんとしていた。なんとも感情の起伏が激しい。よく仲間からも“読めない奴”だなんて言われているが、原因はこの性格だろうか。だが、ファーストネームもそんなに付き合い辛い奴ではない。ちょっとしたことでコロコロと表情が変わるファーストネームは感受性が他人より豊かで、見ていて面白いし、何より案外単純なのだ。すぐ喜ぶし、すぐ悲しむし、すぐ怒るし、すぐ絆される。



「黙ってちゃ分からないだろ」



表情を伺うために、俺は少し屈んで顔を覗き込む。あんまり静かだから、もしかしたら泣いてるんじゃないかと一瞬不安になったが、予想は大きくはずれ、ファーストネームはあいわらずのしかめっ面で足元を睨んでいた。やっぱり、ガキの頃からちっとも変わらない。それはまだ反抗期を引きずってるんじゃないかと思うくらいだ。これは何を言っても聞いてくれないな、と過去の経験から統計した俺は、苦笑いでため息を溢すと、ファーストネームを腕の中におさめた。決して強くはなく、包み込むようなイメージで。それから頭をぽんぽん、と叩くと、ファーストネームは素直に背中に腕を回した。



満足した俺は、ファーストネームを抱き締めたまま少し低い位置にある耳にキスをした。くすぐったそうに肩をすくめたファーストネームの耳はみるみるうちに赤く色付いていき、背中に回された腕にも力がこもる。これくらいでそんなんになってるようじゃあ、“好き”だなんて言われたらぶっ倒れるんじゃないかと内心笑いながら、俺は耳元に唇を寄せたまま、低い声で呟いた。



「好きだ」



そうすると今まで俺の胸板に真っ赤になった顔を埋めていたファーストネームが、ゆっくりとこちらに顔を向けた。高揚して潤んだ瞳が俺をとらえる。大好きって言え。今度はそんなことを要求してきたファーストネームに、嬉しいため息が出る。時々こうして不器用に甘えてくるところが、またクセになるというか、ファーストネームにハマっていく要因になる。
俺はファーストネームの薄い唇に音をたててキスをすると、大好き、愛してる、と立て続けに囁いた。満足か?そう尋ねられたファーストネームは、今度は微笑みながら頷いた。



『ごめんな、シャンクス・・・会議の邪魔して』



なんだ分かってるじゃないか、自分の罪。満足するなり急にいい子になったファーストネームにちょっとだけ驚きながら、俺は腕をほどいた。離れた体の隙間に流れ込む冷たい風に、なんだか少しだけ寂しくなる。ファーストネームは背中に回していた腕をほどくと、申し訳なさそうに眉を下げ、頭をかいた。俺は不意に思い付いた。これだけ反省しているのなら、今後こういう我が強いところを直してやれるかもしれない。これは教育する絶好のチャンスだ!
俺はいきなりファーストネームの左肩を掴むと、そのまま少し強めに壁に押し付けた。威嚇するように少しだけ覇気を放ち、ファーストネームの目をまっすぐに見つめる。一瞬驚いたように目を丸くしたファーストネームだが、覇気に押され、すぐに泣きそうになる。俺は肩から手を離すと、今度は乱暴ぎみに髪を掴んだ。そのまま唇が触れるギリギリまで顔を近付けると、自分でやってても気持ち悪いと思うくらい悪い表情で、口角を持ち上げた。



「だがな、ファーストネーム。あんまりわがままばっかり言ってると、痛い目に合わすぞ」



言いたいことを言った俺は一度だけ半開きのままの唇に口付けると、すぐに覇気を引っ込めた。瞬間、膝から崩れ落ちそうになったファーストネームの体を支える。そんなに強く覇気をだしたつもりはなかったのだが、やっぱりキツかったようだ。俺は、フラフラのファーストネームを壁を背もたれに座らせると、前髪にキスをして、会議室へと脛を返した。











えれきてる



(遅かったな)(わ、悪い・・・ちょっと躾を・・・)







fin




20111203

ベンには弱いお頭が好き。
ブログにて、まりあが泣きながら裏話をしてます←





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