小説(短編) | ナノ
赤い首飾り(エース/男攻主)
キィキィと言うカモメの甲高い鳴き声で目が覚めた。窓から射し込む光に思わず目を細める。もう日はそこそこ高いらしい。そういえば、ベッドの感触とか匂いが俺のじゃない。果たしてここは・・・。
「・・・・ファーストネーム・・・」
そうだった。危うく忘れるところだったが、ここはファーストネームの部屋だ。もっと言うならファーストネームのベッドの中だ。昨日、下戸の癖に酒を飲んだファーストネームに部屋に連れてこられて、口には出来ないようなことをされた記憶が微かにだがある。俺も結構飲んでいて記憶が浅いとはいえ、昨夜の行為を思い出すだけで体が疼いて熱くなる自分がいやになって、寝癖でぐしゃぐしゃになった頭を、俺は思わず抱えた。
不意にベッドを見ると、おそらく下になっていた俺が崩したのであろうシーツが、しわだらけになって寝そべっていた。掛け布団もかろうじて体にかかる分だけベッドに乗り、ほとんどがずり落ちて床と抱き合っている状態だ。その掛け布団がいよいよ全部床に落ち、布が擦れる音が聞こえた。部屋の主が起きたようだ。
『…うぇ…吐きそうだ』
さわやかにおはよう、だなんて幻想を抱いた俺が馬鹿だった。目を覚ますなりとんでもないことをカミングアウトしたのは、俺の隣で眠っていたファーストネームだ。二日酔いだろうか、胃の不快感から眉間に皺を寄せている。なんだかんだ言いながらも、そんな表情さえも色っぽいと思ってしまう俺は、やっぱりどうかしてる。
今は正直、自分に対する嫌悪感とか恥ずかしさから、人のことなんか構ってやれるような精神状態じゃなかったが、そこはぐっと堪えて、気をきかせる。水、貰ってきてやるよ、と声をかけるも、気持ち悪いと唸るファーストネームは、返事すら寄越さなかった。まあ少なくともファーストネームみたいに酒が飲めないわけじゃない俺は、二日酔いの苦しみもちゃんと知ってる。同情から水を取りに行ってやろうとベッドから片足を下ろすと、返事もしなかったファーストネームがきつく俺の手を掴んだ。
じっと無表情でこちらを見てくるファーストネームに、なぜか緊張している自分がいた。あまりにもまじまじとこちらを見てくるもんだから、それもだんだん物騒に見えてきた。あと十秒このままだったら二日酔いでまだぼーっとしているであろう目の前の男に、一発ぐーを入れてやろうかと考えているとき、ファーストネームの口元が色っぽく吊り上げられた。
『首のソレ…いつもつけてるネックレスなんかより、ずっと似合ってるぜ』
首のソレ?
はて、いったい何のことだろうか。俺は理解出来ずに立ち尽くす。いったいファーストネームは何を言っているのだろう。酒は脳細胞まで酔わせるのだろうか。そんなことを考えていると、不意に視界がぐらりと揺れた。状況が理解出来ずに固まっていると、唐突に、首筋にチクリという痛みが走った。それと同時に、視界の端に映る寝癖つきのファーストネームの髪。状況を理解すればみるみるうちに赤くなる頬。顔に熱が集中するのがわかった。
ベッドに引き戻された俺の上には、昨晩の如くファーストネームが乗っていて、首筋に顔を埋めていた。熱を持った吐息を吐き出し、顔をあげるファーストネーム。
だとしたらあの痛みはやはり。
俺は目の前の変態をおもいっきり蹴飛ばした。壁にぶつかったファーストネームは患部を押さえながら、何すんだエース…!、と突っかかってきたが、それはこっちのセリフだ!盛大に吹き飛んだファーストネームは、ベッドと壁の隙間にはまった。顔を真っ赤にしながらも、ざまぁみやがれ、と叫んでやった。朝から盛る奴があるか!動物じゃあるまいし!
俺は後ろから聞こえる謝罪の言葉を聞き流し、部屋の扉をおもいっきり閉めてやった。
すでにクルーたちが甲板では世話しなく働いている。俺達はえらくお気楽なもんだと、自分にため息さえ出る。
と、不意に廊下にかかった鏡が目に止まる。というか、鏡に映った自分に目が止まった。
「……サイアク…」
俺の首筋には、可愛らしい赤い花がいくつも咲いていた。
赤い首飾り
(あれ、エースなんでシャツなんか着てんだ?)(寒いんだ!)
fin
20110812
やっぱり受けのツンデレエースは可愛い!
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