小説(短編) | ナノ
choked by(サンジ/男受主)








真ん丸で綺麗な濃いオレンジの光を放つ夕日が沈む水平線を見つめながら、俺は煙を吐き出した。夕食を終えてやっと休めるようになったこのわずかな時間が、一日の中でも一番好きな時間かもしれない。深呼吸をして、濃厚な煙を肺一杯に吸い込むと、例えようのない満足感が込み上げる。コックなのにタバコなんて吸ったら味覚が狂う、とよく同業の連中からは注意されたが、そんなこと他人に言われなくても知ってる。それに、俺の味覚は寸分の狂いもない。料理なら誰にだって負けない自信がある。




遠くの方でカモメの鳴き声がする。これほどまで甲板が静かな時は、3度の飯の時か風呂の時か、はたまた皆が寝静まった夜中かのいずれかだが、きっと今は馬鹿な船長率いる騒がしいがきんちょ共が皆で風呂にでも入ってるんだろう。いつもはもうちょっと落ち着かないものか、と悩ましく思う絶えない喧騒も、こうして無くなってみるとやっぱり少し寂しい。




『サンジ』




不意に名前を呼ばれて振り返ると、すぐそこにはファーストネームがいて、なにやら重たそうに布団を運んでいた。どうやら今日1日中さんさんと照っていた陽を利用して、自分の布団を干していたらしい。ふかふかになった布団を反動をつけて抱き直したファーストネームは、一瞬よろめきながら、ゆっくりとこちらに歩いてきた。せっかく干したのにタバコの臭いが移るんじゃないか、そう気を効かせてタバコを指に挟む右手を船から海に向かって突き出し、ファーストネームから遠ざけると、サンジの匂いだからいいよ、とファーストネームは柔らかく微笑んだ。俺よりも年下のくせに時々見せる表情がやけに大人びてみえたりして、よく驚かされる。




「風呂は?」




ルフィたちと入らなかったのか?チョッパーがお気に入りのファーストネームにそう尋ねると、彼は少しだけこっぱずかしそうにはにかむと、後でいい、と言った。これは恥ずかしがりやなファーストネームの俺にしか分からない暗号で、こう言うときはきまって俺のあとを追って風呂に入ってくる。俗に言うツンデレなファーストネームは、そうして時々、曖昧で明確な愛情表現を精一杯にしてくれる。俺の心はその度に溢れるくらいに満たされて、死ぬほど幸せになれる。
ファーストネームは俺の隣に立つと、重たい布団を手すりにかけた。それからしばらく心地のいい沈黙が辺りを包み込み、しかし視線を感じて俺が横目で隣を見ると、同じように横目で俺を見ていたファーストネームとカッチリと目があった。すると気まずそうに目を反らしたファーストネームが可愛くて、俺はバレないように小さく笑った。




『それ・・・美味しいの?』




羞恥を誤魔化すためか、それともずっと気になっていたのか、ファーストネームは小声で俺に尋ねた。これか?とくわえたタバコを指差すと、うん、と頷いたファーストネーム。ちょっと意地悪してみようかな、なんて純粋なファーストネームを見ていたら悪いことを思い付いて、そうしたらどんな反応が返ってくるだろうと内心わくわくしながら、吸ってみるか?と尋ねた。一瞬目を見開いて固まったファーストネームだが、数秒首を傾げた後、右手の人差し指と親指でわずかな隙間をつくり、ちょっと、とジェスチャーで示した。その表情は、まるで罪悪感を感じながら夜更かしでもする子どものようで。




「あんまり深く吸うなよ、苦しいから」




初めてタバコを吸う奴はだいたい煙にむせかえってしまうのを知っていて、また実際にその苦しみを体験したことがある俺は、あらかじめ注意をしておきながら、くわえていたタバコをファーストネームの口元に持っていった。初めての経験に恐怖心と好奇心が同居しているのであろうファーストネームの心境は、言葉がなくてもよく伝わるくらい表情に現れていた。少し躊躇ったファーストネームは、慎重に、ゆっくりとタバコを唇にくわえた。薄い唇も、そこから垣間見える白い歯も、年相応でなく色っぽいなあ、なんてのんきなことを考えていると、唐突にファーストネームがむせかえり、はっとした。




「だからあんまり吸い込むなって言ったろうが」




あわててタバコをファーストネームの口から取り上げて、ケホ、ケホと咳き込み激しく上下する背中を軽くさすってやった。咳いていたファーストネームはしばらくしてようやく普通の呼吸を取り戻したが、まだ息は荒く、涙の浮かぶ目尻はほんのりと赤く染まっている。その目元を指先で拭うと、掠れた声で、死ぬかと思った、と呟いたファーストネームがやっぱりまだまだ自分よりずいぶんと子どもな気がして、俺は半分見せびらかすようにタバコをふかした。
そんなもののどこがいいのか、と不思議そうに、また怪訝そうに眉間にしわを寄せたファーストネームは、心底タバコを敬遠してしまったようだ。




そうして、俺がタバコを好きになったのはいつからだろう、とか、どうやったら美味しいのだろう、とかいろいろなことを考えていると、またよからぬ考えが浮かんで、そのどことないくすぐったさから口元が緩んだ。しかし、今度は、今度こそは名案だ。これならファーストネームもタバコの味を理解できるかもしれない。善は急げ、だ。俺はすぐさまファーストネームの名前を呼ぶと、タバコの煙を口に含み、こちらに顔を向けたファーストネームの顎を掴むと、少し強引だがそのまま唇を合わせた。




『んっ・・・むぅ・・・』




苦しそうに顔をしかめて息を吸い込んだファーストネームにゆっくりと少しずつ煙を口移しながら、緊張している肩を撫でる。隙間からもれる煙が目の前の景色を霞めた。せっかくの煙を拒んで口を閉じ、息を止めたファーストネーム。これじゃあダメだと判断して閉じられた唇を舌先で優しく撫でるが、それでも頑なに口を開けることを拒むファーストネームの顎を掴んでいた手で、下唇を引き下ろす。必然的に薄く開いた隙間にすかさず舌を差し込み、歯列をなぞった。




はっ、と息を吐き出したファーストネームは、今度はその反動で大きく息を吸い込んだ。煙も一緒に肺にいれてしまっただろうが、それでも今回はむせたりしなかったことに満足し、最後に2回ほどピンクの唇にわざと音を立てて軽く吸いつき、俺はファーストネームを解放した。無意識に俺のシャツを掴んでいたらしいファーストネームは、力の入らない両手で俺にもたれて体を支えていた。頭を優しく撫でて、うまかったろ、といたずらっぽい笑みを浮かべると、ファーストネームは真っ赤になって、それを隠すためにシャツに顔を埋めてきた。
こんな可愛い表情を見せてくれるのなら、明日も明後日もやってやろうかと思いながらこの幸せな時間を噛み締めていたその時、不意に背後から視線を感じた。




「お取り込み中失礼するけど・・・布団、流されちゃったわよ?」




『!?』




まさかレディーに今の一部始終を見られていたとは思わなかった。かなりショックな俺は、その場から動けなくなってしまった。一方ファーストネームはロビンちゃんの声を聞くなり俺から離れ、そして布団が流されたと聞き、今度は顔を青くして水面を覗き込んだり甲板を走り回ったりしている。
どうしよう、レディーに合わせる顔がない。女好きの俺が男のファーストネームとキスしてただなんて・・・。今まで俺たちの関係はみんなには黙ってきたのに、もう全部水の泡だ。




「『絶望的だ』」




俺とファーストネームの声が重なり、後ろでロビンちゃんがクスクスと笑った。恥ずかしさとかいたたまれない気持ちがごちゃごちゃに混ざって、思わず後ろを振り返ると、ロビンちゃんに、コックさん、と優しく呼ばれ、性懲りもなく心臓が跳ねた。タバコはファーストネームみたいな若い子の体にはとても悪い影響を及ぼすから、この子のことを思うならあまりいたずらはしないこと。そう注意された俺は、ただただ反省するしかなかった。
それと、とロビンちゃんがつけたし、一度足元に落とした視線をもう一度彼女に落とす。




「アナタたちのこと、みんな知ってるわよ?」




天使の微笑みで衝撃的なことを口にしたロビンちゃんは、それじゃ、と軽くこちらに手を振ると、船の中に戻っていってしまった。言葉を失った俺たちは、もうほとんど沈みかけの夕日に照らされ、立ち尽くした。









choked by



(馬鹿サンジ、今日はボンクに一緒に寝かせろ)(新しい布団を買うまで当分好きにしろ)






fin





20111014


最後こんなギャグになるつもりはなかったのですが、終わらせ方が分からなかったので←
大好きなロビンちゃんは友情出演ですwwww






[list][bkm]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -