小説(短編) | ナノ
一年でいちばん沢山のいのちが産まれた日(マルコ/男受主)






親父の船に乗ってからというもの、うざいくらい毎日俺のところに通ってきていたファーストネームが、ある日を境に、全く姿を見せなくなった。同じ船に乗ってるのにこんなことあり得ないだろう、と不審に思い、クルーたちに尋ねてみると、なんと次々と出てくる目撃情報。



ちょうど今から1週間前。いつもより倍以上テンションが高いファーストネームが、夕飯の支度をしている騒がしいキッチンに現れた。目をキラキラと輝かせたファーストネームに気付いたサッチは、てっきり彼が待ちきれずに今晩のメニューでも聞きに来たのだと思い、まだ秘密だぞ、とその頭を撫でた。しかしファーストネームはサッチの言葉には耳も傾けず、ハイテンションのまま、たまごはあるかと尋ね、いったい何のために使うのか、頭が弱いファーストネームの思考はわからず、サッチは黙ってたまごを1つ渡したらしい。



「馬鹿の考えることはさっぱり分からん」



たまご事件の3日後、ファーストネームが現れたのはハルタの部屋。今度は眉間にしわを寄せ、悩ましげな表情で頭を抱えていたらしい。ファーストネームはハルタに、鳥の育て方を尋ねたそうだ。親切なハルタは図鑑で鳥についていろいろと調べ、ひなの育て方から飛ばせ方、さらには交尾と生殖のしくみまで教えてやったという。それはそれで恐ろしいが。



「まさかたまごを孵そうとしてるんじゃ・・・」



嫌な予感しかしない。



そしてまたその3日後、今度はエースの部屋に現れたファーストネーム。泣きそうな顔でエースに飛び付くと、ひよこが産まれないんだ、とわめいたらしい。可愛い弟の悩みを聞いて黙っていられる男ではないエースは、それは一大事だ、とファーストネームに全面的に協力した。
とりあえず暖めればいいが、直接火で炙るわけにもいかない。そうだ、温泉につけてみよう。
いかにも馬鹿らしい思考回路の二人が及んだ結論は、たまごを湯につける・・・俗に言う“ゆで卵”であった。



「馬鹿にもほどがあるよい・・・」



だがしかし、ファーストネームがこの野蛮な海賊船に乗っているのにもかかわらず、命について真剣に考えていると言うのには驚いたと同時に、ちゃんと人道的な考えを持っていたことが嬉しかった。無精卵をひなに。例えそれがただのゆで卵であろうとも、俺は黙って見守ろう。そしていずれ、そうだ、ファーストネームが成人したときにでも事実を教えてやろう。


















夜も大分とふけた。懐中時計に目をやると、もう日付が変わる前。本に集中していると、時間がたつのを忘れてしまう。甲板ではわいわいと騒ぐ見張りの2番隊の声が聞こえる。職務怠慢で明日叱ってやろう、エースを中心に。
明日も早いし、そろそろ床につこうと本をラックに突っ込んでいると、コンコン、と軽いノックの音が聞こえた。こんな時間に誰だろう、と不審に思いながら、入れよい、と声をかける。すると、木の扉はゆっくりと控えめに開かれ、その隙間からまんまるい目が一つ、こちらを覗いていた。



「眠れねェのかい?」



それがファーストネームだと分かった俺は、なるべく優しく声をかけ、半開きの扉を開いてやった。すると、なにやらファーストネームはゴツい毛布を持っていて、やっぱり控えめに部屋に踏み入ると、首を横に振った。
ゆっくりとベッドに腰かけたファーストネームは、うつむいたまま、何か言いにくそうにしている。いったいどうしたんだろう、と疑問を抱きながら、俺は片付けを続けた。



『あの』



精一杯の声でそう紡ぎだしたファーストネームは、足をせわしなくパタパタと動かしながら、ぎこちなく毛布に手を突っ込んだ。その様子をじっと観察していると、毛布から出てきたのはまさかの白いたまご。それは例のたまごか、そう尋ねたい気持ちは山々だったが、いかんせん、ファーストネームは傷つきやすい。余計なことは言わないのが得策だ。俺は黙って差し出されたたまごを受け取った。



「くれるのかい?」



大きく頷いたファーストネームは、でも、と慌てたように口にして、それから再び口を閉じた。ファーストネームのぬくもりで暖かいたまごを手のひらで転がす。おそらくゆで卵だ。しかし、どうして俺なんだろう。次々と沸いてくる疑問符を頭上に散りばめながら、俺はたまごを見つめていた。すると、ファーストネームは再び口を開いた。



『あたためたけど、ひよこ・・・産まれなかったんだ』



震える声は尻すぼみに小さくなり、力なく毛布の上に投げ出された白い両腕が、努力が実らなかった事実がいかに辛いものであるかを物語っていた。1週間も頑張ってたまごを孵そうとしていたのだ。そりゃあ悔しかろう。床の上を行ったり来たり、右往左往する瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。
それから、マルコは鳥だからひよこをプレゼントしたかったのに、と消え入りそう声でぼそぼそと呟いたファーストネームは、両目をごしごしと擦った。濡れた指先がランタンの柔らかい光を浴びてきらきらと光る。



『誕生日、おめでとう』



ますます何のことか分からなくなって混乱していた俺の耳に飛び込んできたのは、誕生日おめでとうという予想外な言葉だった。自分の誕生日なんて物心ついたころから全く意識していなかったし、わざわざ覚えていて、そうして祝ってくれる人がいるだなんて思ってもみなかったからだ。キョトンとしている俺に反して、ファーストネームはこちらをチラチラと上目で伺うと、やっぱりそんなプレゼント嬉しくなんかないよね、と苦しそうに笑った。ファーストネームは、でも日付が変わる前に言えてよかった、と満足そうにため息を吐くと、足早に部屋を去ろうと立ち上がった。



俺は黙ってファーストネームの背中の服を掴むと、強く引き、後ろに向かってよろめいた体を軽く支えると、その頬にキスをした。とたんに顔を赤くしたファーストネームは、また瞳にいっぱい涙をためて、あっちこっちに目を泳がせた。それがあんまり可愛いもんだから小さく笑ってやると、ファーストネームは困ったように眉を寄せて、からかわないでよお、とうつむいた。



小さな弟からの小さなサプライズは、俺の中で大きな大きな幸せになりました。









1年でいちばん沢山のいのちが産まれた日



(来年も、再来年も、一緒にお祝いしようね)(今度はファーストネームの誕生日もな)







fin





20111005


今日はなんと言ってもまりあが一番愛をそそぐマルコの誕生日!
いくつになってもマルコは素敵な不死鳥マルコのままだよ!
誕生日おめでとう!\(´∀`)ノ
ブログで裏話!





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