小説(短編) | ナノ
指揮官の恋愛事情(サッチ/ 男受主)









午後3時。今日は煮込み料理をする予定だから早めに仕込みをしておこう、と4番隊の野郎共を引き連れてキッチンに足を運ぶと、そこには想定外の人物がいて、不規則にまな板に包丁がぶつかる音が聞こえた。カウンターまで歩み寄り、向こう側を覗いてみると、包丁を持って猫背で調理台に向かうファーストネームとばっちり目が合った。



「よっ。何してんだ?」



軽く片手をあげて挨拶をすると、ファーストネームは顔をしかめて、なんだもう来たのかよ、と頬を膨らませた。聞くところによると、最近ファーストネームはカレーを作るのにハマっているらしい。そこんとこの理由は知らないが、料理を作ることは良いことだ。俺は、周りで同じようにカウンターの向こう側を覗き込んでいる隊員たちに、メニュー変更を告げた。煮込み料理は止め、今日はカレーだ。
それを聞いた隊員たちは、カレーを作るにはまだ早いな、ということでぞろぞろとキッチンを出ていった。その後ろ姿に、サボるなよ!と呼び掛けると、俺は再びファーストネームに視線を戻した。



「危なっかしいなーお前」



ファーストネームの野菜を切る手つきはみるからに初心者で、一瞬気を抜いたら指を落としそうだ。しかしその表情はいたって真面目で、一生懸命さが伝わってくる。指にはいくつか絆創膏が巻かれていて、やっぱり怪我したんだなあ、と弟分を可愛く思う。ファーストネームのことだ。ナースには危ないと止められていても、嫌だ、の一言で一刀両断してきたんだろう。クルーの体調管理をするナースが気の毒でならない。でも、そんなやんちゃなファーストネームをなんだかんだで皆可愛がるんだよなあ。



「違う違う」



それじゃあまた指切っちまうだろ?とファーストネームの動きを制しながら、俺もカウンターの奥に入った。隣に並んでまな板の上に転がる歪なじゃがいもを見て苦笑いをした俺に、笑うなよ、と顔を赤らめたファーストネームは、再び包丁を動かしはじめた。乱切りか?と問いたくなるような切り方にやっぱり笑いそうになるが、また機嫌を損ねられると面倒なので、今度はこらえた。



「しゃーねぇな!兄貴が教えてやるよ!」



え、と目を丸くしたファーストネームを尻目に、俺はぴったりとファーストネームの背後にたつと、後ろから包丁と野菜を持つ小さな手に自分の手を重ねた。どきどきと早鐘をうつファーストネームの心音が心地良い。こうやって、とファーストネームの手を握って切り方を指導すると、ぴったりとファーストネームの私語は止んだ。ゆっくりではあるが、先程とはちがって形よく切られていくじゃがいもに、満足感が込み上げた。



「ほーら、完璧」



ひとつのじゃがいもを切り終わったところで、今度は一人でやってみ、とファーストネームから離れた。腕の中の温もりが名残惜しい。ファーストネームはまだ頬をほんのり赤らめたまま、二つ目のじゃがいもをまな板に置いた。さてさてどんな具合に切り方を理解してくれたかな、と楽しみにしながら手元を眺めていたが、ファーストネームは一向に動こうとはしない。じゃがいもに左手を添えたまま、右手は包丁を握ったままだ。



どうした?と俯きっぱなしのファーストネームの顔を覗き込むと、ファーストネームの顔はさっきよりも赤くなっていた。驚いて言葉が出なかった。男に手取り足取り、なにかのAVのワンシーンでありそうなやり取りをされるのは、まだ若年の彼には刺激的すぎたのであろうか。あの、えーっと、と俺が言葉を探していると、俺が言葉を見つけるより先にファーストネームが口を開いた。



『もう一回教えろよ・・・さっきみたいに・・・』



「・・・可愛くねーの」



ぶっきらぼうにそう言ったファーストネームの手から包丁を取り上げてまな板の向こう側に置くと、細い腰を引き寄せ、後頭部を掴んで、真っ赤なファーストネームの薄い唇にキスを降らした。










指揮官の恋愛事情



(セックスのやり方も教えてやろうか?)







fin





20110926


夕飯のカレーを作ってたら思い付いたネタ
サッチに手取り足取りいろんなことを教わりt(ry






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