小説(短編) | ナノ
なんてことのない、日常のお話(シャンクス/ 男受主)








今日は日曜日だし、普段できないようなところを掃除してみようかな、なんて主婦みたいなことを考えていると、よたよたとおぼつかない足取りでリビングに現れたファーストネーム。パジャマにすると言って取られた俺のシャツは明らかにサイズが大きくて、片方の肩が露出するくらいに着崩されている。眠い目をごしごしと擦りながら壁にぶつかりそうになっているファーストネームの腕を引き、ぎゅっと腕の中におさめて、おはようのキスをした。



「おはよう」



『・・・はよ・・・』



薄く開いた目はぼーっと俺の顔を見上げた。なんだか猫みたいだなあ、と思いながらファーストネームの背中を押して脱衣場まで誘導して、歯を磨かせる。幼稚園児でもあるまいし、過保護なんじゃないかと周りからは言われるが、可愛いから放っておけないんだ。仕方がないじゃないか。寝癖をドライヤーで直すと、次は朝食。
トーストに目玉焼きを乗っけただけの簡単な朝ごはんだが、ファーストネームは文句も言わずに食べてくれる。



「うまいか?」



『うん、うまい』



ふんわりと微笑むファーストネームを眺めるのももう日課になってきた。
朝食の後は二人で掃除だ。布団を干して、掃除機をかけて、風呂掃除をして、今日は気分がいいからフローリングの拭き掃除もだ。ファーストネームが転けてフローリングに顔面をぶつけて鼻血を出したりするハプニングもあったが、無事掃除は終了。掃除をしていると時間が経つのが早く感じる。もうお昼だ。



適当にパスタでもゆでて、昼食はささっと済ませる。それから1時間くらいはゆっくり休憩だ。俺が陽の当たる暖かいカーペットの上に寝転がると、猫みたいに四つん這いで寄ってきたファーストネームは俺の上にまたがり、そのままうつ伏せに寝そべった。深呼吸をしながら首筋に頭を擦り寄せてくる様は、まるで本物の猫だ。柔らかい髪を何度も撫でてやると、すぐにすやすやと寝息をたて始めるファーストネーム。良く寝るなあ、なんて他人事のように思っているけど、かくいう俺ももう眠い。



『シャンクス・・・大好き・・・』



ううん、と唸ったファーストネームのむちゃくちゃ可愛い寝言に悶絶しながら、迫り来る眠気に抗うことはしない。こうして1時間くらい二人して昼寝を楽しむんだ。
目を覚ますと2時過ぎで、ぽかぽかと暖かい陽気に誘われて外に出る。目の前を黄色いちょうちょがよぎって、春だなあ、と実感。このままちょっと散歩にでも行こうか、とどちらからともなく手を繋ぎ、小道をゆっくりと歩く。



『きもちいな』



「そうだな」



一言二言会話を交わすだけで、後はただひたすら手を繋いで歩くだけ。途中寄ってきた蜂に怖がってファーストネームが飛び付いてきたのが可愛かった。ファーストネームが寄り道して摘んできたタンポポの花を一輪持ち帰って、ガラスのコップに水を汲んでテーブルの真ん中にいけた。我ながらなかなかお洒落だと思う。枯れてしまうのは残念だが、そしたらまた二人で摘みに行こう。
ソファーに座ると膝の間に体を埋めてきたファーストネームを抱き締めてつかの間のいちゃいちゃタイム。



『痛ェよ、髭』



「痛くない」



子どもみたいな筋の通らない屁理屈を並べてファーストネームの頬に顔をぐりぐりと押し付けると、少し赤くなってしまったファーストネームの白い頬。今度はそこに何度も何度もキスをする。無邪気に笑ってくすぐったそうに体をよじるファーストネームを抱き締めて、三日月形に曲がっている唇にもリップ音をたててキスをする。下唇をはむようにもう一度口付けると、恥ずかしそうにふふん、と鼻で笑ったファーストネームは、体を90度回転させて体勢を変えると、こめかみをぐりぐりと首筋に押し付けてきた。そのままぎゅーっと強く抱き締めて、おとなしくなったファーストネームの髪にそっと何度目かのキス。



「エッチする?」



『んー、今はやだ』



甘えた声で、だって明るいし、と言われてしまえば、拒否されてしまったことも嫌ではない。
セックスをしないというのならば夕食の準備をしなければ。今日はシチューがいいというファーストネームのリクエストに答え、ホワイトシチューだ。夏になると滅多に作らなくなるし、これがこの春最後のシチューになりそうだ。ファーストネームがニンジンを切る隣で俺はじゃがいもの皮を剥く。こうやって男二人で料理しているのを第三者が見ると、どう思うのだろう。
くつくつと音を立てる鍋からは食欲をそそる良い匂いがする。シチューをお揃いの器に入れ、お揃いの食器で食べる。



「うまいか?」



『うん、うまい』



昼間とおんなじ問答を繰り返すと、ファーストネームはやっぱりふんわりと微笑んだ。食べ終えたら食器を二人で洗って、テレビを観たりお風呂に入ったり。一緒に入ろうか、と提案したのだが、どうせセクハラするんだろう、と嫌がられてしまった。二人ともお風呂に入り終えるとバラエティ番組を観て大笑いして、その後は二人ならんで髪を乾かしたり歯磨きをする。



翌日の準備を終えると、ダブルベッドに入る。まだ肌寒い夜の気候に身震いしたファーストネームは、もぞもぞと深く布団に潜り込んだ。寒いか?と尋ねると、うん、と頷いたファーストネームは、俺の方に近寄ってきた。こちらからも近付いて距離を縮め、ファーストネームの肩を抱いた。不意に触れたファーストネームの小さな足が体温がないみたいに冷たくて、思わず足をひっこめてしまったが、すぐに抱き込むように足も体の方に引き寄せた。



しばらくそうして抱き締めていてやると、足もだいぶと温かくなってきた。顎の下にあるふわふわのシャンプーの良い匂いがする髪に口付けると、ファーストネームはゆっくりと顔を上げ、眠そうな目で俺を見た。それからちゅっと俺にキスをすると、またすぐに布団に顔を埋めた。それがなんだかおかしくて、バレないように小さく笑うと、顔が見えないファーストネームに、おやすみ、と小声で囁いてみた。すると、もう意識が朦朧としているであろうファーストネームは気持ちの良い羽毛布団の中、呂律の回らない舌でちいさく、おやすみ、と呟いた。良い夢が見られますように。そう祈り、俺も目を閉じた。










なんてことのない、日常のお話



(そうしてまた、朝が来るわけで)









fin





20110920


最近ハードなものが多かったので、たまにはほのぼのなんてどうでしょう?






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