小説(短編) | ナノ
*痛み分け(マルコ/男受主)






*現パロ/流血注意!








ただいま、とリビングに向かって声をかけながら家に上がった。いつもならすぐに返ってくる返事が今日は返ってこない。寝てるのか、と思い、寝室を覗くと、やはりそこにはファーストネームがいた。ベッドに横たわって毛布にくるまる小さな背中が見えて、そちらに歩み寄った。
スーツを脱いでハンガーにかけ、ネクタイを緩めながら再びただいま、と声をかけて白い塊を撫でた。もぞりと動いた塊はごろんと寝返りをうつと、俺の顔を見てへにゃりと気の抜ける笑みを浮かべた。



『おかえり』



やっと聞けた“おかえり”という言葉に安心しつつ、俺はファーストネームの薄い唇にキスを落とした。
なあなあマルコ、と顔を離すなり呼び掛けられ、どうした?と優しく尋ねながら髪を撫でた。ファーストネームは毛布をまとったまま起き上がると、細い左腕を俺の目の前につき出したのだが、俺はそれを見た瞬間、悪寒が一気に背中を駆け抜けたのが分かった。



『怪我した』



そう言うファーストネームの左腕の手首には何本もの赤い筋が出来上がっていて、そこから流れる血は毛布や肌を真っ赤に濡らしていた。よく見ると毛布から覗く鎖骨や首筋にも切り傷があり、毛布も血まみれだった。どうして先に気づかなかったのだろう。焦りと後悔が押し寄せた。
とりあえず手当てを急ごうと救急箱を取り出して毛布を剥ぐと、ファーストネームは全裸だった。服を来たら傷が痛かったかららしい。そもそもこれは怪我なんかじゃないはずだ。人為的な、自傷行為。



「どうしてこんなことした」



上半身だけではなく、下半身まで傷まみれで血まみれのファーストネームを治療しつつ尋ねると、ファーストネームはうーん、と考えるような仕草をしたあと、コップを落としてしまったんだと答えた。飛び散ったガラスの破片が体を傷付けたと語るファーストネームだが、ガラスの破片の上に寝転がりでもしないかぎり、こんなひどい怪我をすることはない。唐突なファーストネームの行動に困惑しながら、傷口に絆創膏を貼ったり包帯を巻き付けたりした。



目につく傷口は全て治療し終わり、ファーストネームの体は絆創膏と包帯だらけになってしまった。それでもファーストネームは嬉しそうにそれらを見つめ、ありがとう、と笑った。一件落着だな、と思うと自然とため息がもれ、その時になってやっとカッターシャツの白い袖口が赤く染まっていることに気がついた。必死で治療していたから、ファーストネームの血がついたことにも気がつかなかったらしい。
俺は二回目のため息を吐き、脱衣場に向かおうとした。その時、そういえば、というファーストネームの声に呼び止められ、足を止めた。



『ドアのポストに手紙が来てたよ』



「手紙・・・?」



ここはマンションなので、ドアのポストなんか留守中に回覧板が押し込まれるくらいにしか使われない。そんなポストに手紙が来ていただなんておかしな話だ、と疑いながらも、俺はとりあえず言われた通りにポストに向かった。
滅多に覗かないポストを覗き込むと、そこには確かに白い封筒があった。赤い模様があるように見える封筒を引っ張り出し、改めて見たところで、俺の心臓は大きく拍動した。



封筒の赤い模様は血だった。それがファーストネームのものだなんて、すぐに推測できた。封筒を開くと、中には不器用に折り畳まれた3枚の紙が入っていた。よれよれの紙を開くと、そこに書かれていたのはなんと“血文字”で書かれた“だいすき”の文字列。
さすがに異常だと思った俺は、寝室に戻り、ファーストネームに血書を突きつけた。



「これはなんだよい・・・!?」



ファーストネームは俺が怒っているのにも関わらず、やっぱりへにゃりと笑って、血書は気持ちが伝わるって聞いたから、と答えた。だからって、俺はこんなことされても嬉しくない。そばに居てくれることだけが幸せなのに。ファーストネームはそれじゃ満足できていないのだろうか。いろいろな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡った。



「ファーストネームの気持ちはちゃんと伝わってる・・・だから」



自分を傷つけてまで俺のためにしようとしないでくれ。切実な願いを込めてファーストネームを抱き締めた。華奢な体は今にも折れてしまいそうなほどだ。傷だらけの肌は不健康なまでに白くて、血まみれになったのにもかかわらず、体からは良い匂いがした。後頭部に手を回してさらに引き寄せると、ファーストネームも背中に手を回してきた。それから聞こえてきたのは、鼻をすする音だった。



急に腕の中で泣き出したファーストネームに驚きながらも、俺はファーストネームを抱き締め続けた。すると、ついにしゃくり上げだしたファーストネームは、ゆっくりと自傷行為のわけを話し始めた。



『おれ・・・マルコにずっと好きでいてほしかったから・・・』



嫌われたくなくて、どうしたら好きになってくれるか考えたんだけど、気を引く方法なんかこれくらいしか思い付かなかったんだ。本格的に泣き出したファーストネームは、俺のシャツをぎゅっと握りしめると、胸に擦り寄ってきた。



ああ、悪いのは全部俺じゃないか。ここのところ仕事が忙しいという理由で、あんまりファーストネームにはかまってやれていなかった。夕食も家で食べないし、帰りも夜の12時を回る。抱いてやったのももう1ヵ月以上前になる。それでもなんのわがままも言わずにずっと帰りを待っていてくれたファーストネーム。指を怪我しながら一生懸命作ってくれた料理も、いつ帰ってきてもいいようにと早くから沸かしておいてくれた風呂も、全部受け止めていなかった。愛し合ってるつもりで満足していたのは俺だけだったんだ。



「ごめんな、ファーストネーム・・・寂しかっただろい」



小さく震えながら、心配してほしくて体も傷付けたけど本当はすごく痛かったんだ、と泣くファーストネームが、とても儚いものに見えた。ちょっとおかしい行動をとれば心配してくれて、かまってくれる。そんな思考回路を産み出させてしまったのは俺だ。俺は額からキスを落とし、徐々に降下して顔中にキスをした。
今まで与えられなかった愛情を、全部表現するために。










痛み分け



(だいすきって言って)(何度でも言うよい)







fin





20110917


こういう夢好きです←
なんだろう、夢主がちょっと身体的にも精神的にも痛い思いしてるような夢が大好物ですwwww






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