小説(短編) | ナノ
流動的37℃(マルコ/男受主)




*現パロ/盲目主人公







『おはよう』



今日も変わらぬ朝がやってきた。鳥たちのさえずりが聞こえたと思うと、すぐに新聞配達のバイクがけたたましい音を立ててすぐ目の前の道を走り抜ける。徐々に明るくなってきたカーテンの向こう側では、車が走る僅かな振動や会社員の革靴の足音など、どうもよそよそしく聞こえる雑音たちが騒ぎ立て始めた。
おれはこの時間が一番嫌いだ。一番忙しくて、一番生き生きしていて、おれを鮮やかな世界から無色で味気ない世界に押しやるような、朝が。



「冷えるだろい」



ベッドの縁に1時間半ほど腰かけて、遮光カーテンの向こう側に広がる世界に、もう僅かな光しか感じない目を向けていると、やっと目を覚ましたマルコがおれの腕を掴んで引っ張ってきた。
おれが視力を失いつつあると知ったあの日から、マルコはずっとそばにいてくれるようになった。離れていては不便だと言い、同棲も始めた。炊事、洗濯、掃除やおれの入浴補助など、いろいろと世話をしてくれてる。今まで見えていたものが急に見えなくなる不安感と不便な生活に苦しむおれとしてはしょうじきとても嬉しかった。



「二度寝だよい」



今日は仕事が休みらしいマルコに強く腕を引かれ、おとなしく布団に入る。そんなささいな行動も助けてくれるマルコは、不憫に見えるほど優しい。同棲するのが決まってから購入したまだ新しいセミダブルのベッドはとても心地がよく、盲目になったおかげで発達した触覚は、ふわふわの敷き布団をたいそう気に入ったようで、今ではこのベッドが家で一番落ち着ける場所だ。
布団を肩までかけてくれたマルコは、おれの体を抱え込むと、後頭部を掴んでたくましい胸板に押し付けた。おれが朝が苦手で不安になることを知っている彼は、こうして毎朝抱き締めてくれる。マルコの優しさがくすぐったくて、いつもは感謝の言葉なんて口にしたこともなかった。身内に言う“ありがとう”はなんだかこっぱずかしくて、躊躇ってしまう。



「ファーストネームはあったけェな」



そう言ったマルコは、後頭部に添えていた手で髪をすいてくれた。そうするとすぐに降ってくる眠気になんとか抗おうと、おれは必死で意識を繋ぎ止めた。目を閉じていたら余計に眠くなるような気がして、重たい瞼を持ち上げる。しかし、目の前にあるはずのマルコの首筋や胸板が見えないのは、理解したつもりでもやっぱり苦しくて、泣きたくなった。



あんなに見つめ合うのが好きで、目と目を合わせるだけでテレパシーみたいに気持ちが分かるくらい通じ合っていたのに。おれの大好きだった金色の髪も、たくましい体も、繊細な指も、海みたいに透き通った青い瞳も、色を忘れてしまうのかなあと考えると悲しくてしょうがなかった。見えない目なんていらない。色がないのなら痛くもないのかもしれないし、腹いせに潰してやろうか。
狂気に満ちた感情が心の中にぐるぐると渦巻き、もくもくと灰色の積乱雲をつもらせた。



『・・・マルコが見たい・・・』



ぼそっと呟いた言葉に、マルコの手は動きを止めた。どうしようもなく不安で、暗闇の中にずるずると引きずられていきそうな、そんな気持ちの中、おれはマルコの背中に腕を回した。離さないようにシャツをぎゅっと握りしめると、腕にも力を入れた。
すると、不意に捕まえたはずのマルコが腕からいなくなり、一気に不安感が襲った。思わずマルコを求めて宙をさ迷った両手は、すぐに手首を掴まれ、ベッドに押し付けられた。



下半身に重みを感じ、マルコが上に乗っかったことが分かった。するとすぐに上半身にも重みと温もりがやってきて、体がぴったり密着した安心感に、思わず目を閉じた。すると、今度は唇に柔らかいものが触れた。マルコは何度も何度もついばむようなキスを寄越すと、手首を離し、おれのシャツを押し上げ、胸から腰にかけてを優しく撫でた。



「見えないなら、感じろ」



首筋に痺れるような刺激がはしり、腰がびくんと跳ねたのが分かり、羞恥から顔に熱が集まった。マルコは執拗に首筋を舐めたり吸ったりを繰り返した後、シャツのボタンを全部はずし、左右に大きく開くと、想像するのも恥ずかしいがもう小さく主張しているだろう乳頭に口付けをした。可愛い、とか綺麗だ、とか誉め言葉を並べてくれるが、そんなのどうでもいいくらい、脳みそはぐちゃぐちゃになっていた。



でも、おれはこのぐちゃぐちゃになるのが大好きだった。触られてキスされただけなのに、まるでセックスしてるみたいに気持ちよくて、中をむちゃくちゃにかき混ぜられてるみたいな、不思議な感覚。腰のあたりがじくじくと疼いて、瞬間、全身の力が抜けていく。目の前の男におれの全部を支配されているような感覚が、大好きなんだ。
大好きなんだよ。マルコ。


『ありがとう・・・っ、こんなおれを・・・好きでいてくれてありがとう・・・』



感極まって溢れた涙はおれの頬を濡らし、ベッドのシーツにシミを作った。泣きながら言った“ありがとう”は嗚咽混じりだったけど、体を伝わるこの体温のように、うまく伝わっているかな。











流動的37℃



(飽きるほど愛して)





fin





20110911


久々の更新!
盲目主人公でした!






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