小説(短編) | ナノ
かくれんぼ(マルコ/男受主)







朝起きると廊下がやけに騒がしくて、いったいなにごとだと部屋から覗くと、倉庫の前に人だかりができていた。ガタイのいい男共がわんさか密集するそこは、近寄るのも躊躇われるほど暑苦しくてむさ苦しい。隊長共はこの騒ぎをどうして見過ごしているのだ、見張りは二番隊のはずだ、エースはどうした。目覚めの悪さにイライラしながら人混みの中に踏み込むと、その先頭に、ドアノブを掴んでいるエースがいた。



「エース、何があったか説明しろい」



人混みに揉まれながらエースの肩を掴むと、たいそう慌てた様子の彼は、俺のシャツを掴んで、ファーストネームがファーストネームが、とそればかりを叫んだ。誰よりも慌てふためいているエースをなだめると、俺はさっきまでエースに握られていた血まみれのドアノブに触れた。そういえば、と足元を見ると、床とドアの隙間からは赤黒い血が流れていて、いよいよ俺は嫌な予感しかしなくなった。
ドアノブを回して軽く押す。しかし、ドアはびくともしない。それでエースが慌てていたのか、とひとり納得すると、ドアを蹴破るために人混みを散らせ、数歩後退した。勢いをつけてドアを蹴ると、案外簡単にはドアは外れ、すぐそこに大きな木箱がつまれていて、それが開かないドアの原因だったことはすぐにわかった。



一歩中に足を踏み入れるとそこは血の臭いが充満する異質で、床に点々と繋がっていた。それをたどっていくと、やがて倉庫の一番すみっこ、船の修理用工具や材料が積み上げられてある一角に、小さな塊が横たわっているところにたどり着いた。カタカタと小さく震える塊に歩み寄ると、足元ではぴちゃぴちゃと嫌な音をたてて血が跳ねた。



「こんなところで何してるんだよい」



後ろからはクルーたちの、早く医務室へ!という声が聞こえるが、それは無視し、うずくまるファーストネームの体をそっと起こし、そこに座らせた。見ると左の肩口はぱっくりと傷口が開いていて、そこから大量の血が流れ出ている。左手はもう血で真っ赤だし、横たわっていたため、髪まで血に濡れている。
血が減って血圧が一気に下がったからか、それとも痛みからか、相変わらず震えているファーストネームの体に自分のシャツを被せると、傷口に触らないように、軽い体を担ぎ上げた。



「どうして倉庫に隠れた?」



騒ぎ立てるクルーの人混みを抜けて医務室に運ぶ間、ファーストネームはその理由を明かしてくれた。
ファーストネームが怪我をしても治療をしようとしないのはいつものことだ。他人に借りを作りたくないし、痛いかららしい。しかし、それでもいつもはクルーの誰かに連れられ、嫌々ではあるがちゃんと治療を受けている。しかし今回は、絶対に見つからないようなところに、しかも厳重にドアまで塞いで隠れていた。嫌がることはあっても、隠れることなんてなかったのに。
ファーストネームは俺の肩に顎を乗せ、小さく短く息を繰り返した。



『・・・見つけてくれると・・・思った・・・』



マルコ隊長なら、おれを見つけてくれると思った。
ファーストネームの言葉に一瞬耳を疑った。自分はこんなにも部下に信頼されていたのかと思うと、なんだかくすぐったいような、嬉しいような。それから俺にしか聞こえないような小さな声で、ありがとうございます、と呟いたファーストネームは、ふらふらの体で猫みたいに俺の首筋に頭を擦り寄せてきた。実は居場所を特定したのはエースなんだけどな、という言葉を飲み込み、俺はファーストネームの頭をぽんぽんっと撫でた。



「どこに隠れても俺が見つけ出してやるよい」










かくれんぼ



(次はどこに隠れようかな)(とりあえず怪我してたら医務室に行け)






fin





20110906


甘くないorz
もっと甘いのを求めているというのに…!
スランプかもしれません(´;ω;`)






[list][bkm]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -