小説(短編) | ナノ
ぴんくな気持ち(マルコ/男受主)







「帰れ」



『嫌だ』



さっきから、帰れ、嫌だの押収が長時間続いている。俺が困り果てているのは全てがこの頑固なじゃじゃ馬、ファーストネームが原因だ。
俺はいつも通り、日課の寝る前の読書をしていた。その時にファーストネームは現れ、ベッドを占領した。どうせすぐに寝るだろうと思い、ファーストネームが寝てしまったら大部屋に放り込みに行こうと考えていた、のだが。



「俺が寝れねェだろい」



なかなか寝付かないファーストネームに、そういえば昼間、エースと甲板で昼寝をしていたなあ、と記憶がもの申した。ベッドの脇で仁王立ちして威圧するも、ファーストネームにはまったく効かないらしく、相変わらずこっちをじっと睨んでいる。こんなにらみ合いを続けていても一向にらちがあかない。どうしたものか。



お前はいったい何がしたくてここに来たんだ。俺は直接尋ねて事件を解決に導こうとした。あとはファーストネームが理由を明らかにし、それから解決方法を模索するのみ。自慢ではないが、この船でも頭はキレる方だ。原因さえ分かればすぐに解決できるはず。
明日も朝早く起きて新聞を読んだり親父を起こしたり忙しい、事は一刻を争う。それに、こいつと同じベッドで眠るなんて無理だ。いや、生理的にとかじゃなくて理性的に。俺の儚い年下の男の子への想いは、あっけなく散る予定なのだ。変に期待はさせないでほしい。



「ファーストネーム」



『・・・・』



しかし、作戦はどうやら失敗したらしい。まさかここで黙秘権を発動されるとは思っていなかった。目を反らして俺の質問にだんまりを決め込むファーストネームに大きなため息を吐くと、それが気にさわったのか、ファーストネームは再び俺を睨んだ。またにらめっこを始める気はない俺は、わざと目は合わさずに、頭をかいた。腕を組んで、いかにもお前のせいで困ってますよという風にアピールする。



もう時間もだいぶ遅い。これじゃあ明日、目の下に立派な隈を作って、またサッチに笑われてしまうではないか。あいつに罵られるのだけは勘弁だ。こうなれば、と俺は、最後の最後まで取っておいた最終手段を、しかたなく使うことにした。



その方法とは、少し手荒だが、何よりもシンプルだ。ファーストネームにトラウマを作る。大部屋がむさ苦しいかなんだか知らないが、この部屋は俺の部屋で、ファーストネームのいるべき場所じゃないということを、体に教えてやる。といっても、強姦とかいう惨いことはしない。ただちょっと、おどかすだけ。
もしかしたら明日からは名前も呼んでくれなくなるかもな。少し心を痛めながら、でも期待させておいて突き落とされる方が痛い、と思い直し、俺はいよいよ行動に出た。



「いい加減にしねェと―――」



少し怒ったような口調を演じ、逃げる隙間も与えないくらい素早く、俺はファーストネームを組み敷いた。両手首をしっかりと掴むとベッドに押し付け、膝の間に足を差し入れ、顔を思いっきり近付ける。目を丸くして口を半開きにしているファーストネームは、身じろぎも出来ないほど驚いたようだ。あと一押し。



「イタイ目にあわすぞ」



わざと舌なめずりをして、口角をつり上げる。やっと言葉の意味を理解したらしいファーストネームは、顔を真っ赤にして、目をぱちぱちと何度も閉じたり開いたりさせた。うぶなところがまた可愛いな、とファーストネームの新たな魅力を発見したが、今この瞬間をもって俺の恋も玉砕したということだ。海賊でも奪えないもんがあるんだよ、自分を慰めつつ、ファーストネームの上から退いた。



もう口も聞いてくれない、それくらいショックをうけて部屋を飛び出していくファーストネームを想像していたため、俺は目の前の光景を見てきょとんとしてしまった。ファーストネームは相変わらず顔を染めたまま、手近にあった枕を掴むと、ぎゅーっと胸の前で抱き締めた。動けないほどショックだったか?少しやりすぎたかもしれない、と反省しながら、退室を促すためにドアを開けようとしたとき、ファーストネームのか細い声が聞こえ、俺は動きをとめた。



『・・・教えて・・・くれよ・・・・イタイ目・・・』



ああ、神様。
アンタは俺に人生最後の楽しみを与えてくれたのか。今まで神様なんてろくなもんじゃねぇと思っていたが、撤回する。そして、今から人生最後の最高のプレゼントを満喫することにしよう。










ぴんくな気持ち



(神様はぴんくな気持ちをプレゼントしてくれました!)







fin





20110905


おっさんも恋を実らせることができるんだ!





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