小説(短編) | ナノ
worth(シャンクス/ 男受主)







ベッドの中、取り替えたばかりのシーツに、俺とファーストネームはくるまっていた。開けた窓からは涼しい潮風が入ってきて、ほてった体を冷ますにはちょうどよかった。
セックスを終えた後、決まってファーストネームは俺の左肩を触る。10年前に無くした左腕。特に10年前の話題に触れるわけでもなく、ただひたすら、今は丸くなったその切断面を指でなぞり、いつの間にか眠っているのだ。だが、今日は少し様子が違った。いつもと同じように俺の左肩を、つー、と人差し指でなぞったファーストネームは、ちらちらと俺の顔色をうかがっている。痛くはないぞ、もしかしたらと思ってそう言ってみたが、ファーストネームは首を横に振った。



『ここ・・・どうしたの?』



ああ、そうか。こいつは今まで、俺に左腕の話題はタブーだと思ってたんだ。だから、気にはなるけどその真実に歩み寄ることはしなかったのだ。今ごろ尋ねてきたファーストネームの、俺の肩に触れる小さな手の上に自分の手を乗せると、知りたいか?と、少しいたずらに笑ってやった。すると好奇心にまざる罪悪感が消えたらしいファーストネームは、まるで物語の続きをねだる子どものようにみるみる表情を明るくし、知りたい、と返した。ファーストネームの瞳が期待を含んだ。



「“未来”に賭けてきた」



どや顔で返した俺の答えに、未来?と首をかしげたファーストネームは、そんな賭け事あったのかとか、1年後の未来の掛け金はいくらだとか、もっとも具体的なことをいろいろと尋ねてきた。しかし、俺の言う“未来”とはそんな具体的なものではなく、もっと抽象的でリアルなものだ。詳しく説明しても分かってくれそうにないのでわざわざ説明はしないが、そんな汚い掛けじゃないさ、とだけ説明した。
ふーん、と表面上納得したようにあいづちをうつファーストネームだが、きっと全く分かってなんかいないのだろう。そんなファーストネームを微笑みながら見つめていると、でも、と小さな声が飛んできた。



『“未来”にはすごく大切なものを賭けたんだね』



どきん、と心臓が苦し紛れにもがいたのがわかった。ファーストネームの言葉がまるで、“あの子にはそんなに良いものをあげたのに、僕にはこれっぽっちのものしかくれないんだ”、そう言っているように聞こえたからだ。それはきっと、俺が言うそもそもの“未来”というものが10年前に出会った少年であることと、その少年が俺にとってファーストネームと同じくらい大きな存在だということを、自分で理解しているからだ。



「じゃあファーストネームは何が欲しい?」



ほんと、気休めなんかじゃない。不意に出た言葉は俺の不安な心を暗に示していて、自分でもびっくりした。いい加減な生き方をしてきた俺でも、大切な人はいい加減にしたくないんだ。
組み敷いて密着した肌から伝わってくる体温は、そんな荒れた俺の心を落ち着かせてくれた。いきなり組み敷くなんて、まるで自分の気持ちを隠すための防衛みたいだな、と自嘲しつつ、数センチ先で心臓をバクバク言わせているファーストネームの鼻の頭に軽く自分の鼻先をくっつけた。



『僕は・・・シャンクスが欲しい』










worth



(俺はファーストネームに口付けた)







fin





20110831


なんかベッドでいちゃこらが好きすぎて、最近全部おんなじ感じにorz






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