小説(短編) | ナノ
けんか(マルコ/男受主)






いっぺんに大勢が収容できる広い食堂では、暑苦しいクルー達が昼食を摂っていた。ガチャガチャと食器がふれあう音と、ガヤガヤと会話をする声が混ざる騒がし食堂の一角では、食事時にはそぐわない、不穏な空気が流れていた。それは、ある二人の喧嘩による。
そう、仲が良いので有名な二人、マルコとファーストネームが喧嘩をしていたのである。いつもならば隣り合わせの席につき、仲むつまじく食事を摂る。食事に限らず、何をするときでも基本的には一緒にいるのがいつものお決まりな二人だが、今日は違った。
席の端と端。長机の両端に座った二人は、まるで他人であるかのように振る舞っている。



「おいおい、大丈夫か?」



ファーストネームに話しかけたのは、自分の分の昼食を持ったエースだった。そのまま正面の席に腰を下ろすと、真逆にいるマルコのことをちらりと伺った。マルコはもくもくと目の前の食べ物を口に運んでいる。
再びファーストネームに視線を戻すと、ファーストネームもファーストネームで、まるでマルコなんかおんなじ空間にいないかのように目の前の食べ物をちびちびと口に運んでいる。が、皿を見ると、料理はそんなに減っていない。



『エース、やるよ』



そう言って差し出された皿にはまだかなりの量の料理が盛り付けられたまま残っていて、エースは困惑した。いまだに皿を受けとれずにいるエースを尻目に、ファーストネームは無言で席を立った。その時、エースは今まで見えていなかったファーストネームの頬が赤く腫れていることに気がついて、思わず手を掴んだ。



「ファーストネーム、お前、それ・・・」



『・・・』



ファーストネームは焦った様子で顔を背けると、エースの手を振り払った。そのまま食堂を去ろうとするファーストネームを、エースは追おうとはしなかった。一瞬しんとしたクルー達だったが、イライラしているマルコを視界に入れると、一様に顔をひきつらせ、わざとらしく騒がしさを取り返した。
























『はぁ・・・』



皆が食事中で自分しかいない甲板の上で、ファーストネームは一人、白いしぶきを跳ねあげる水面を眺めていた。先ほどエースにバレてしまったアザに、自分でも触れてみる。少し力を入れると、そこはズキンと傷んだ。殴られた、あの瞬間を思い出すようだ、と急に悲しさが増したファーストネームは、じんわりと沸き上がってきた涙を堪えるために、ぐっと歯を食いしばった。
喧嘩に負けたことも悔しいし、喧嘩したことも悲しい。殴り合いにまで発展してしまった喧嘩だ、そう簡単には仲直り出来そうにない。
ファーストネームは船縁にもかれかかると、顎をのせた。その時、背後から足音がした。



『・・・今頃謝りに来ても――――』



醸し出される雰囲気からそれをマルコだと悟ったファーストネームは、先手必勝と言わんばかりに、先に口を開いたのだが。最後まで言い終わるより先に、背後から首に腕を回された。
唐突に密着した体。馴染みのあるシャツからは、嫌というほど嗅いだ匂いがした。すると今までせき止めていた涙がぼろぼろと頬を流れ、顎を伝って、ファーストネームを抱き締めるたくましい腕に落ちた。



「・・・・悪かったよい、殴ったりして」



そう謝ったマルコは、ファーストネームを抱き締める腕に力を込めた。腕の中でしゃくりあげるファーストネームの頬にそっと触れると、そこはまだ熱を持っていて、やはり腫れていた。いくら男同士の喧嘩だったとはいえ、自分のとった行動と考えの幼稚さに、ため息さえこぼれる。
マルコはファーストネームの体を反転させて自分と向き合わせると、殴られた時のトラウマがあるのか体を固くしているファーストネームに、触れるだけのキスをした。



「許してくれねェかい?」



マルコがそう優しく尋ねると、しばらく目元をごしごしと擦って涙を拭っていたファーストネームだったが、自ら小さな一歩を踏み出し、マルコの胸に体を預けた。しゃくりあげる様子は相変わらずだ。小さく上下する肩に愛しさが込み上げてきたマルコは、力一杯ファーストネームを抱き締めた。



――こんなにも弱くてこんなにも小さいファーストネームを守るのは、他でもない、この俺なんだ。



マルコは胸の内で固く決意をした。もう、ファーストネームを傷付けるようなことは絶対にしない。コイツを全力で愛し続ける、と。










けんか



(そもそも、喧嘩の原因ってなんだっけ?)(さあ、忘れたよい)





fin





20110820


喧嘩して殴られて仲直りして抱き締められたい!というまりあの願望です(´∀`*
男の子同士だからこそ殴り合いの喧嘩で友情とか愛情とか深められるのっていいですよね!






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