小説(短編) | ナノ
真っ白のスケジュール帳(マルコ/ 男受主)





*学パロ/主人公転校生設定








もう夏休み間近だというのに、こんな時期に転校生とは珍しいじゃないか。名前は確か……ファミリーネームだったか。あんまり興味がないから、下の名前は忘れた。





ふと転校生に目をやると、ファミリーネームの周りには、好奇心旺盛で人懐っこいエースとサッチがたかっていた。なんでここに来たんだ、とか、彼女は置いてきたのか、とか、しょうもないことばっかり質問攻めにしているのが聞こえる。ファミリーネームはというと、少し押されぎみで質問に答えているようだ。





今度は、エースがクラスのひとりひとりを指差しながら、あれはイゾウで、あれはハルタで、と説明を始めた。女子の説明をするときはちょっと嬉しそうだ。そんな奇妙な風景を見つめていると、不意にファミリーネームと目があった。あわてて目を反らしたファミリーネームに気づき、エースが、あれは俺の親友のマルコ!と説明をし、こちらに手を振って、次に手招きをした。





「こっち来いよマルコ!」





ファーストネームも話したいって、なぁ。と、急に話題を振られて焦っている転校生。そうか、下の名前はファーストネームだった。
大声で俺の名前を連呼するエースに分かりやすいため息を吐き、しかたなく腰をあげる。ファーストネームの近くまで歩くと、エースは楽しそうに俺の腕をぐいぐいとひっぱった。
こいつがマルコな、と改めて紹介され、とりあえず、よろしく、と社交辞令の挨拶を交わす。お互いに様子見だ。





「なあなあ、ファーストネーム。この土曜暇か?」





『この・・・土曜?』





サッチの誘いに対して、ちょっと待ってね、と言うと、ファーストネームは鞄からスケジュール帳を取り出した。男でそんなもの使ってるやつなんか珍しいもんだから、ちょっと驚いた。ファーストネームは深緑の表紙のそれを俺たちに見えないように開き、目を落とすと、その日はちょっと・・・と、苦笑いでやんわりとサッチの誘いを断った。



サッチフラれてやんの、と笑ったエースは、自分のケータイを開き、画面を見た。





「じゃあ、日曜は?」





俺がこの辺の面白い場所に連れてってやるよ、と何かを企んでいるような笑みを浮かべたエースは、ファーストネームの肩に手を置いた。そんな思わせ振りな態度のエースに少し顔を赤らめたファーストネームは、ごめん、と呟いた。





『今週の土日は、まだ引っ越しの後片付けをしなきゃ駄目だから・・・』





えーー、とブーイングを飛ばすエースの頭を一発殴ると、サッチは、お前聞き分けねぇなぁ、と眉間にしわを寄せた。そりゃあそうだ、と客観的に引っ越し事情に頷いていると、項垂れたエースは、購買へ行くと言って去っていった。サッチもその後に続く。おいおい、ちょっと待てよ、ほとんど初対面のファーストネームと俺を二人っきりにするのはいくらなんでも。



そんな俺たちをよそに、エースとサッチはスタスタと教室を出ていってしまった。
ちらっとファーストネームを見ると、気まずいのは彼も同じらしく、うつむいたまま目を泳がせている。





不意に、ファーストネームの手元からスケジュール帳が滑り落ちた。あ、という声と共に小さな物音を立てて床に落ちたスケジュール帳を、俺は反射的に拾った。そこで俺は不思議なことに気付き、手の中のスケジュール帳に目を止められた。
しかし、それはなぜか焦った様子のファーストネームによって阻止されてしまった。取り上げられてしまったのだ。





わたわたと焦ってスケジュール帳を鞄に押し込むファーストネームに、聞いてはいけないかもしれないと思いながらも、俺は気付いてしまった事実の真意を確かめることにした。





「お前・・・・何も予定入ってないんじゃ・・・」





『あの、これは、その、』





俺の問いかけにさらに慌てたファーストネームは、頭をガシガシと掻きながら、さらに目を泳がせた。なんだかそのきょどってる様子が面白くてじっと見つめていると、ファーストネームはちらっと俺を見上げた。それからちょいちょい、と手招きをされたので上体を下げて、ピンク色の女みたいな唇に耳を寄せると、ファーストネームはくすぐったくなるような息の抜けた小声で囁いた。





『僕、すごく人見知りで、だからあういうちょっと騒がしい人苦手で・・・。実は予定なんかないんだけど・・・断っちゃった』





二人には黙っておいてね、と付け足したファーストネームは、そっと俺から顔を離した。見れば分かるほど酷い人見知りだってことをわざわざ耳元でカミングアウトしてくれたことと、二人だけの秘密を共有させてくれたことに、なんだか優越感が生まれる。さっき遊びに誘って断られていた二人を思いだし、心の中でざまあみろと呟いた。





『なんだか、あなたとは友達になれそうだな』





そう言って照れ臭そうに微笑んだファーストネームは、マルコ、と確認するように俺の名前を呼んだ。
俺はファーストネームの鞄に無許可で手を突っ込むと、スケジュール帳を引っ張り出した。驚いて固まっているファーストネームを尻目に、俺は今週の土日の二マスに股がるように、“朝9時に駅前集合”と書き込んだ。





「ココ、開けとけよい」





とんとん、とボールペンの先で文字の上を叩いた後、デートしてやっから、と付け足すと、口を開けているファーストネームは、みるみるうちに赤くなって、パンッと音が鳴るくらい勢いよくスケジュール帳を閉じてしまった。
そんなファーストネームの元にエースとサッチが帰ってきて、いじりたおされていたが、後はまあうまくやりすごせ。くれぐれも休日のことだけはバレないように。
これも、二人だけの秘密だからな。









真っ白のスケジュール帳




(デートって言った、デートって・・・!)(あいつ面白い)






fin





20110816


積極的なマルコも大人な落ち着いたマルコも好きですwwww





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