俺のあたまが覚えているかぎり、たしかもうこれで七回目だった。狩屋はああ見えてあんまり自己主張をしないでまわりに合わせるタイプだから、ここまで本気になってるすがたをはじめて目の当たりにして、ちょっとびっくりしたっていうのもある。真剣なのにどこかおびえたようににじむ蜜色のひとみがふたつ、俺をまっすぐ貫いてどうにも目がそらせなかった。かわいいかわいい後輩は、なぜだかおなじ男の俺に恋をしてしまったらしい。
「……そんなに、すきなの?」
 たずねると、くちびるをきゅうと結んでちいさくうなずいた。俺だっておまえのこと、すきかきらいかで言えばすきだけど。おまえが何度も何度も伝えてくれるそれとはきっとちがうものだろう。
「狩屋」
 呼んだらびくりと大げさなくらい肩をふるわせて、おそるおそる見上げてくる。いつもの気の強そうなつり目は眉といっしょに垂れていて、こいつにこんな顔をさせてるのは俺なんだと思うとなんだか胸がきゅうんとしてしまった。
「じゃあ、……付き合ってみよっか」
 一瞬なにを言われたのかわからなかったみたいで、「へえっ」とまぬけな声を上げた狩屋が数秒後、みるみるうちにまっかになってっておもしろい。「せ、せんぱい、……ほんとに?」 信じられないというふうに手で口もとを覆う狩屋のあたまをぽんぽん撫でて、ほんとだよ、やさしい声で言い返した。
「う、う、うれしい、です……」
 どうしよう、俺、どうしよう先輩。ジャージの袖に顔をうずめてあたふたしているすがたを見つめて、ついに押しに負けてしまったなあと思った。一回目、泣きそうになりながらすきですと言われたときは、まさかそんな意味だとは予想もできなくて。三回目でやっとそういうことかと気がついて戸惑って、四回目と五回目は逃げるようにはぐらかした。それでも狩屋はひたすら一途に、先輩がすきなんですって、そこまで言ってくれるならいいか、と。すきな女の子がいるわけでもなければ、かわいがってる後輩からの熱烈な好意を突っ返すほど冷徹でもなくて、迷う理由と言ったらもともと性別の問題くらいだった。
「よろしくな、狩屋」
 いつまでもあわあわしてる狩屋がおかしくてわらいながらそう言ったら、くぐもったちいさな声でこちらこそよろしくお願いします、と返ってきてかわいい。
 いまはまだはっきりとは言ってやれないけれど、いつかおなじ意味をこめてことばを与えられたらいいなあと、こころのなかでそうっとつぶやいた。




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