病は気から

という言葉を自分自身に言い聞かせる。
そう、要は気分なんだ。今、このデスクの上で雪崩れを起こしそうな勢いで積み上げられている書類=仕事 を前に『風邪をひいたっぽい』等とほざいてはいけない。
マッターホルンの様に微妙な角度を保ちつつそれでも倒れない、という私に対して至極挑戦的な態度のソレを、私は攻略しなくてはならない。
私は目の前の敵を睨み付ける。きっと今の私の眼光は神田と同じ位鋭い筈だ。あの私の好きな揺るぎない強い瞳。そして私だけに見せる柔らかな瞳。自分が彼の特別な存在である事を私に教えてくれる、その瞳の為に私はこのゴツいマッターホルンという名のアクマをぶちのめし跪かせてやる。だって明日は神田が帰ってくる(らしい)

私の愛しいひとである神田。彼が久振りに帰って来るのだから、私だって仕事なんか休んで神田と有意義な時間を過ごしたい。私はぐらつく頭を気合いで奮い立たせた。マッターホルンが二重に見えるのは、彼への熱に浮かされている所為だ。それ位私は神田が好きなんだ。帰って来たら何をしよう、話したい事も沢山ある……最初はそうだ、謝らなくちゃ、


―そうあれは神田が任務に出る前、私達は今度神田が赴く国を確認すべく世界地図を眺めて話をしていた。その時目に入った湖。その紙上の湖を見て、私のユウへの愛はバイカル湖よりも深いよ、と言ってみた。怪訝な顔の神田に私はバイカル湖が世界で一番深い湖である事を教えた。


「…そうか」


神田はそう言うと頬を弛めて私をあの瞳で見た。とても心地がいい、神田の瞳。彼は口数は決して多くはない、だから付き合い初めは神田の考えている事が分からなくて、度々不安になっては涙した。好き、とか、愛してる、とかあんまり言ってはくれないから。それは今でも変わらないけれど、だんだんと神田のそうゆう処を私が解るようになってきたから、今となれば然程問題でもない



「ならオレはマリアン海溝だ」

珍しく、珍しく神田が私に愛を囁いてくれた。予想もしていなかった彼の言葉に心臓が鼓動を早めた、凄く、凄く嬉しかった。
でも馬鹿な私は、神田それを言うならマリアナ海溝だよ、と言ってしまった。
二人の間の甘い雰囲気が一転して微妙な空気になったのは言うまでもない。私は地図を必死に確認する神田の姿を見て、自分の犯した失態を痛感した。






…あれはホントに私が馬鹿だった。折角神田が私に想いを伝えてくれたというのに。
神田はとても強くて格好良いけれど頭は少し弱い…のかもしれない。だけどバイカル湖程の深い愛を持つ私にはなんの障害にもならない。寧ろ愛しさが増してくる。そういう処が可愛いいとさえ思う。



「これも頼むな」

リーバー班長の手でマッターホルンがチョモランマになった。過去を逡巡していた(現実を逃避していたとも言う)私は呆然と進化した敵を見やった。

「顔赤いぞ、どうした」

「なんでもありません。」

そう、なんでもない。倒すには変わりはないのだから同じ事だ。こんな状況でも神田だったら不適に嗤うに違いない。だから私だって嗤ってやる。たった今、大っ嫌い、になった班長に

「いや、赤いって。熱でもあるんじゃないのか」

心配そうに私を覗き込みながら、班長は私の額に手を当てた。大きなひんやりした班長の手は優しい。

「私は神田一筋ですから、ときめかせようとしたって無駄ですよ班長」
「誰か医療班呼んできて」
「スルーですか、」











そして私は医療室に強制連行された。そのまま眠ってしまった私が翌日目を覚ますと、傍らに待ちに待った彼がいた。


「ごめんね神田。折角神田が休みなのに」
「んなこと気にすんだったら早く寝て治せ、」

神田は私の頬に優しく指をあてて休むように促した。彼の指から伝わる温度と、落とされる眼差しの気配に安心して、ありがとう、そう言って私は再び瞼を閉じた。

眠りに落ちるその時






「マリファナ海溝だからな」

神田がまた愛を囁いてくれた。








 
Ver.B






あながち、
私の貴方への気持ちが中毒じみていて
違わない、そう思った


fin.
071129








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