「苦手なんですよ」
「子供だなあ、アレンくんは」
「少ししか年違わないじゃないですか」
「その『少し』の分おねーさんだもん」
―お酒も飲めるし

僕の言葉に彼女は笑いながらそう応えて、僕にロゼのシャンパンの瓶を差し出した。無言で受け取った僕に、彼女はグラスを手に取る。彼女のワインを開けてやるのはいつからか僕の役割に成っていた。彼女の部屋で過ごす事が自然になってきた頃、未成年の飲酒はだめですよ、そう言った僕に、「フランスでは16歳から飲めるのよ」と彼女は僕にワインを開けさせた。勿論僕はお酒は苦手だし、ここはイギリスで、彼女はフランス人でもなかったけど、愛しい彼女に頼まれては拒否することもできなくて、僕は素直に開けた。
今日は何故だかシャンパンだけど、

それを彼女に訊くと、アレンくんの帰還祝いだよ、と僕にはジュースを差し出してくれた。わりと今回の任務は長期のものだったから、僕が帰ってきたことは彼女にとってシャンパンを開ける程の出来事なんだろうか、そう思うと嬉しかった。
グラスに白い泡をたてるシャンパンを注いでやるとありがとう、と彼女は微笑んで口を付けた。「甘い」と、少し不満気に言いながらも彼女はグラスを傾けて、僕が2度それを繰り返した頃には、彼女の頬はこのシャンパンと同じ薄いバラ色になっていた。ほんのりと色付いた頬に手を伸ばすと、彼女が僕を見詰め返してきた。ゆっくりと濡れた口唇に顔を近づける、目を伏せた彼女に僕は頬を緩めながら彼女の唇を通り越し、耳元に口付けた。
彼女の身体が微かに跳ね、そして肌が泡立つ。
僕がこうして彼女の耳元に囁く言葉はベッドの前の甘い言葉だと彼女は知っている。だけど、今日は違うんですよ、息を詰めてじっと待っているような彼女に僕はそう思いながら口を開いた。


「僕が居ない時、ひとりでしましたか?」

「え?」

口付けを予想して目を閉じたのに、与えられたのはそんな言葉で、彼女は恥かしさに頬を赤らめ戸惑った顔で僕を見返した。その表情を視界の端に捕えながら、もう一度囁く。耳朶を含んで、噛んで、吐き出して、敏感になったそこに溶かすように、脳までも侵食するように


「ひとりで、しましたか?」

「し、してないよ」
「そうなんですか、どうして?」
「どうしてって…」
「僕はしましたよ。何度も、何度も、貴女を思って」

僕の言葉に顔を真っ赤にして口籠った彼女に笑みが漏れた。さっきまで『年上のお姉さん』だった彼女とは大違いだ。こうゆう事に関しては彼女はとても消極的で、その差が僕を煽る事を彼女は知らないんだろうか。

「もしかして、仕方が解らないんですか?」

え、と声を上げた彼女より早く僕は彼女の手を取った。彼女を後ろから抱き込む様にしてベットに座る。

「アレンくん?なにす―」

振り向こうとした彼女を力で押さえつけて、その手を取って彼女の下腹部に誘導する。反射的に閉じようとした脚を、僕の脚に絡めて、僕はまた彼女の耳に囁いた。

「教えてあげますよ」







快感からなのか羞恥心からなのか、彼女の身体はどんどん熱を帯びてきて、漏れるため息や声が色付いてきた。初めの方こそ抵抗し何とか僕から、この状況から逃げ出そうとした彼女だけれど、今はもう僕の手は、彼女の手に添えているだけになっていた。それに彼女は気付いていないのかもしれない。時折声を洩らしながら自らを溶かす彼女に、僕も喉の渇きを覚える程熱さを感じていた。喉だけじゃなく、身体も、触れる空気すら熱い。ふと視線を移すと、窓から西日が射しこんでいる。窓の外には彼女が飲んでいたシャンパンと同じ、透明な朱の夕焼けが広がっていた。グラスの中には飲みかけのシャンパンが小さな気泡を湛えていた。上っては弾ける光の粒、お酒は苦手だけれど、光が溶けているようなあのシャンパンは美味しそうだ、僕はそう思って、彼女の顎を取って口付けた。渇きを潤すように夢中で口付けた彼女の口内は、思った通りで、彼女が「甘い」と言っていただけあって甘かった。唇を離すと彼女が潤んだ瞳で僕に請う。



「ダメですよ、最後までひとりでして下さい、」


また彼女の手を取って誘導してやる。ぐずる様に拒否した彼女に出来るだけ優しく僕は笑いかけた。


「練習ですから、ね?」


僕の事想ってして下さい、そう言うと彼女は固く目を閉じて僕の手に従った。その伏せた睫毛の隙間から涙が零れた、頬を伝う涙が日に照らされて光る。ロゼワイン色の夕日が差し込むこの部屋で、彼女は僕の腕の中で溶けていく、
まるであの光の粒のように。






















そう溶けてしまえばいい
僕のことだけ想って、僕にもっともっと溺れて、僕なしでは生きられない様になって
(だってもう僕は、君に溺れているのだから)



fin.
080621

title by クロエ




アンケート参考品
黒アレンの甘大人風味














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