舞うように降り始めた雪の中、べしゃっという音が聴こえそうな程見事に転んだ子供はそのまま動かずに固まった。実際音が聴こえた距離にはいないオレは、そのまま目が離せないでただ見ていた。
泣きそうになりながらも子供がひとりで立ち上がると、傍にいた母親らしき大人が、しゃがんでその子供の頭を撫でた。痛かったね、でも頑張ったね、そんな優しい声が聴こえる。





不思議、だな

小さな声がして、オレは傍らの彼女に視線を向けた

「子供のころは、ああして抱っこしてもらいたいときには『抱っこー』って言えて、泣きたいときには泣けたのに、」

どこかぼんやりとして呟く彼女。その視線の先には、ふわふわと揺れ落ちる雪の中、さっきの子供が母親に抱かれながら泣いていた。小さな手でしっかりとしがみつくその子供に懐かしさを覚えて、この雪のように、ふわ、と優しい、でも少し切ない気持ちが胸に広がる。あの子供のように、素直に泣いたり伝えたり自分だって出来ていた筈だ。だけど少しずつ大きくなった身体と引き換えに、出来なくなった事も多くなったのかもしれない、音もなく降るこの雪のように

言葉を切ったきり黙りこんだ彼女を見やると、その言葉通り憧憬と寂しさを含んでいるような眼差しで親子を見ていた。大人になった自分が失くしてしまった何か、幼い頃に置いてきてしまった何か、それがあの親子に重なる



「言ったらいいんさ、」

彼女に、自分自身にそう言うと、彼女は不思議そうに首を傾けた。

「抱っこ?って?」
「まあ抱っこじゃなくてもさ、…自分の気持ち?」
「私の気持ち…」

彼女はポツリと呟いて、オレに言われた事を考えるように顔を伏せた。



「ラビみたいに?ストライクー!!って?」

ぱっと顔を上げて悪戯っぽい瞳の彼女に、オレは言葉を詰まらせた。いやアレは反応というか衝動に身を任せ(過ぎ)た結果で…、ていうか今は

真面目な話さ、とオレが不貞腐れて言うと彼女は、髪を揺らして笑った。素直に、可愛いと思う。揺れる髪の間から寒さで赤くなった耳が見えて、オレはオレの気持ちを口にした。



「手、繋ごっか?」

オレの言葉に彼女が少し目を見開いた。吃驚した様なその表情に、オレはなんだか恥ずかしくなった。"ストライク"は何の躊躇もなく出来るのに(というか何も考えずにしている)、こんなふうに自分の気持ちを言うのはやっぱり恥ずかしい、そして怖い。彼女の反応を待つのが辛くて、オレはもう一度親子を見やった。変わらずにふわりふわりと降る雪のその先、手を繋いで歩いていく親子の笑い声が遠く聞こえる。

「寒いし、さ」

付け加えてしまった言葉に、彼女は目を細めて笑った。































繋いだ手は冷たかったけれど
オレの手を握り返した彼女が照れたように、でも嬉しそうに笑うから
オレは今まで言えなかった

この気持ちを贈ろうか




fin.
071123



先に素直になられると負けです












「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -