昨夜は大雪が降っていたせいか酷い寒さで、独りのベッドが堪らなく辛かった。毛布にくるまって身を縮めて眠った。こんな時にふと、彼女の事を思い出してしまう。オレの腕の中にすっぽり収まって、抱き枕みたいだった彼女。いや、抱き枕なんかより柔らかくてあったかくて…ってホント、オレって未練たらしいと思う。

彼女が死んだのは、もう随分前で、季節は何周かしてしまった。それでも移り変わる季節の中に彼女はいて、時々オレの前に現れる。

春の暖かな陽気の中に、夏の鮮やかな緑に、秋の澄んだ空に、冬の眩しい白の中に





          『ラビ』




    
『ラビ』




            『ラビ』  



          

『ラビ』






まだオレの傍にいた頃の彼女を想うと、オレの心は苦しくなったり、ちょっと泣きそうになったり(我ながら情けないさ)、まるで割れたガラスに触れた様に痛んで、やっぱり涙が出た。

でも流れ続ける川の水が、河原の石をまるく磨いでいくように、時間は記憶を風化させていく。彼女をなくした痛みとか、哀しいという気持ちも鋭さを少しずつなくして、それはそれで少し辛くて淋しくもあったけど多分、自分にとっては良いことなんだろう。
だってオレは生きているから、生きていかなければならないから。












「さよならさ、名前」


雪に埋もれた彼女の墓の前、白い息を吐きながら、オレは彼女に最後の言葉を掛けた。墓標の上の雪を少し払うと、調度大好きだった彼女の名前が現れた。
オレはそれが嬉しくて、ちょっとだけ笑った。だって名前はいつもオレの傍にいてくれたから。


でもそれも今日で終わり、
オレは名前を忘れるから


真っ白な雪に人差し指を突っ込んで、彼女の名前の隣にゆっくりと文字を綴る。書き慣れた文字、ここにいたオレの証、でもこの文字を綴るのもこれが最後だ。

こんな寒い季節、咲く花なんてないから
名前が好きでいてくれた49番目のオレを、最後に手向けて、
オレは行くよ。











さようなら

大好きでした

この世界で誰よりも何よりも
愛していました


さよなら
さよなら

きみに出会えて幸せでした









「ありがとな、名前」

一言呟く様にして、オレは歩き出す。
真っ白な雪が痛い位に眩しくて、やっぱりちょっと泣きそうになった。












きみを愛したことさえ
なかった様に生きてい




だからせめて、きみの隣で眠らせて
きみが愛してくれたオレを

(そして、ひとり生きていくから)





end
071011









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