昨日学校の帰りに買った物を渡すと、彼女は吃驚した様に目をしばたかせて、僕とその小さな箱を交互に見た。

「私に?」
「いらないなら捨てる」

差し出した手を引っ込めると彼女は慌てて口を開いた。え!?いる!いります、欲しいです!
相変わらず騒々しいと思いながら、再び彼女に渡すと、彼女は躊躇いがちにそれを受け取った。
その小さな箱は可愛らしいピンクのリボンが掛けられていて、彼女はそれを丁寧に解いて箱を開けた。

「ピアス?」
「それ以外何に見えるの」
「わぁ凄く綺麗…雲雀さん、着けてみていい?」

無言の僕を肯定と受け取ったらしく彼女は、箱から慎重に耳飾りを取り出した。銀色の小さなまるい粒が連なっているそれを、暫く手の平で眺めた後、彼女は髪を耳に掛けて着けた。そして照れ臭そうに笑う。ありがとう雲雀さん、凄く嬉しいです!無邪気に笑う彼女の耳で、銀色が柔らかく揺れる。
僕は顔をしかめた。


「ねぇ咬み殺していい?」

そう言うと彼女は笑顔のまま固まった。それから、え、なんで私何かした?、あたふたと慌てて身をオーバーにばたつかせる。耳飾りが揺れる。とても似合う、と思う。だけどね、そんなに無邪気に無防備に喜ばれるのも、それはそれで、気に入らない。


「君は僕を縛り付けようとしているの?」
「え?そっそんな事ないよ、ないです!」
「今だってしているよ」
「えぇ!?私いつ…」
「僕は何時だって君に縛られているよ。解らないの?」
「…私は雲雀さんを束縛してるの?」

そうだよ、僕はそう応えて彼女を見据えた。怯えた様に身を縮めた彼女は、それでも小さな声で僕を否定した。

「そうかな、私雲雀さんにそんな事してるかな…」
「君は僕を不自由にしているんだよ」


昨日だって街を見回って弱い草食動物を一掃して良い気分だった時、ふと見掛けた雑貨屋に飾られた耳飾りを見付けた。
小さなまるい粒が行儀良く連なった銀色のピアス
彼女の耳朶にくっついて、長い髪の隙間からゆらゆら揺れるそれはとても綺麗なんじゃないか、なんて想像したらもう手にそれを取っていた。
その帰り、五月蝿い草食動物の群れを見付けた。咬み殺してやろうと思ったけれど、折角の綺麗な箱が、汚い血で汚れてしまっては台無しだ、そう思って風紀委員に任せる事にした。
今までそんな事は無かった。
気付いたら彼女は僕の生活の何処にでも存在した。綺麗なものを見れば、これを見た彼女はどんな表情をするだろうとか、旨いものを食べれば、彼女にも食べさせてやりたいとか。兎に角、僕は僕と並盛の事を考えていれば良かった頃とは変わってしまっていた。
それは僕にとってはとてもとても不自由な事だった。
そしてまた無邪気に無防備に笑う彼女を見ると、もっとその表情を見たいと思う。
満足する事の無いそれは僕を束縛する。



「そんな…私どうすれば」

簡単な事だ。

「僕と居ればいいよ」
「…雲雀さんと、一緒に、居ればいいの?」
「嫌なの?」
「いっ嫌じゃないです!あの、う、嬉しいです!」

顔を真っ赤にして慌てた様に言う彼女は可笑しくて可愛らしいとも思った。初めて見たその表情に僕は笑みを零した。こんな事でこんな風に自分が笑うのも初めてかもしれない。そんな僕の顔を見た彼女は、赤らんだ顔のまま笑った。それはとても嬉しそうに幸せそうに見えて、やっぱりもっと、ずっとこの表情を見ていたい、そう思った。




ェな








070823
fin'








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