吐く息が白い、鞄が嫌に重く感じる、…指先の感覚がなくなってきた。
このままでは手が使い物にならないので、気休め程度に制服のポケットに入っているカイロで指先を温める。
(…だんだん指先の感覚が戻ってきた、………緊張はとれないけど)
ーーーー今日は、これからの人生が大きく左右されると言っても過言ではない最初の一大イベント、………そう、受験だ。
私は立海大付属に通っているので、本来ならエスカレーター式にそのまま高等部に上がれるのだけれど…、私は外部受験を選択した。
立海には大切な友達がいっぱい居たし、本音を言えばできる事なら離れたくなかった。
でも私には、どうしても叶えたい小さい頃からの夢がある
それを叶える為には、今から受験を受けにいく高校に入る事が、一番の近道なのだ。
寂しくないと言えば嘘になる
でも、それでも、私が今ひとりで緊張しながらも慌てずに電車を待って居られるのは
臆病者の私の背中を押してくれた人達が居てくれたからだ
(大丈夫、大丈夫、私はやればできる子だ)
自分に頑張って言い聞かせる
スーッ…ハ〜〜………
深呼吸をしてみても、緊張はとれないままで…
(大丈夫、だいじょー…《〜〜♪〜〜〜♪》(ビクッ)…、ヤバッ、携帯の電源切るの忘れてた…)
慌てて電話の通話ボタンを押す
「も、もしもし…?」
《もしもし?……ガヤガヤ…繋がったんスかー!?………あいつ緊張しすぎてガチガチなんじゃねーのかよぃ?………ちょっと五月蝿いよ赤也と丸井、今俺が話そうとしてたんだけど》
「…もしもーし」
《す、すんません部長。……ま、いーよ。次したらどうなるかわかってるよね?………も、もももちろんです!…》
「もしもーし!!」
《…もう、なんだよさっきからうるさいなぁ》
「いきなり電話かけてきて放置しておいてその言いぐさは何!?」
《……何だ全然大丈夫そうじゃねぇーか》
「…え?…ジャッカル?、何が…?」
《だが、携帯の電源を切り忘れていた確率87%》
「…ちょ、柳あんたどっかで見てんの!?」
《何だと!?今から受験会場に行こうという者が……たるんどる!!》
「…うぅー…、耳元での真田の怒鳴り声はキツい」
《…真田くん、電話では声が響くのですからあまり大声で怒鳴ってはいけませんよ》
《む、スマン。》
《本当だよ、まったく…、大丈夫?緊張してないかい?》
「え!?だ、大丈夫だよ!」
《弁当忘れてねーかよぃ?》
「それはバッチリ!!」
《こんな時でも食い意地だけは張ってるんッスね…》
「えっへん!」
《威張るところではないだろう》
《…何時も通りで安心したよ》
「…てゆーか何で皆わざわざ電話かけてきてくれたの?」
《何、お前の様子が気になって仕方がない奴らが多数居たものでな》
《本当だよ、落ち着きがないったらありゃしない…》
《かく言う精市もそわそわしていた一人だがな…》
《ちょ!蓮二!?》
「みんな…(幸村が慌てるとか珍しいな、さすが参謀)」
《みんなお前の事心配してんだぜぃ?感謝しろぃ!!…大丈夫だ!お前は俺と一緒で本番に強いタイプだろ!!俺が言うんだから間違いねーっ!》
《先輩なら絶対大丈夫ッス!頑張ってきて下さい!!》
《貴方の頑張りは私達がたくさん見てきました、落ち着いて行って来て下さい》
《お前ならできる!俺も陰ながら応援してるからな!!》
《気合いを入れて行って来い!!全力で挑むのだ!!》
《…お前に勉強を教えていた俺が宣言しよう。お前なら大丈夫だ。自信をもってやってこい。》
《ふふっ、大丈夫、自分を信じてやりきってきな。俺達がついてるんだ、不安要素なんて1ミリもありはしないよ。…仁王、何時まで黙っているつもりだい?》
《…最初に電話をかけると言い出した張本人が話さないでどうする?照れ隠しも電話では伝わらないぞ》
《………わかっとる、…参謀せからしか》
「(仁王が何か可愛い)」
《ほう…、そういう口をきくのか。しかし耳が赤くては説得力がないぞ?》
《………今日は参謀が意地悪じゃ》
「(柳どS…!!)」
《……おーい、聞いちょるかー?》
「聞いてるよー」
《お前さんの、夢を叶えたいっちゅー気持ちをぶつけてきんしゃい。自信をもってやればお前さんの気持ちは絶対通じるはずじゃ。肩の力ぬいて…、大丈夫、俺が言っても説得力はないがのぅ、努力は絶対に裏切らん、お前さんなら…大丈夫ぜよ》
「…うん、皆、ありがとう…!」
不思議と緊張は薄れて、
自分でも単純だと思うけど、皆の大丈夫って言葉を聞いたら本当に大丈夫な気がしてきて自信がでてきた。
大丈夫、私は常勝立海大の生徒だ
全力を出し切ってやる
先程まで気になっていた指先の冷たさは、いつの間にか気にならなくなっていた。
鞄の重さもさっきまでとはまるで違うように感じる
もう一度、大きく深呼吸をする
…スーッ…ハ〜〜……
うん、大丈夫
後悔だけは、絶対にしない
End
(…ふぅ、大丈夫かなー…)
(精市も心配性だな、あいつならもう大丈夫だろう)
(そーそー!!ま、昼飯食いすぎて腹壊さない限り大丈夫だろぃ)
(…はっ!、その可能性があるじゃないか…!なぁ、仁王)
(…ピヨッ、…無い、と言い切れない所があいつの怖いところじゃな。)
(流石に大丈夫ッスよー!………多分)
(少し心配し過ぎではないか…?確かにあいつは多少ぬけているが…)
(あの方も女性なのですから大丈夫ですよ、見ず知らずの人しか居ない場で食べ過ぎたりはしないでしょう。………きっと)
(みんな流石に心配し過ぎじゃねーか?……って言えねーのが悲しいぜ)
(………はぁー…、やっぱり心配だなぁ)
この話は、私が受験日の朝に頂きました。
本来ならばこの話を読んで、受験に挑まなければならなかったんですが…。受験会場の都合上携帯を持ってけず、受験が終わってから読む形になってしまいました。ごめんね彩嘉ちゃん!!
彩嘉ちゃんには感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとう!!
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