諦めなんて、習ってない


※宍戸さんが橘さんに負けてからのお話。




「ただダブルスでなら、てめぇの努力報われるかもな」

レギュラー落ちして、跡部に試合を申し込んだ。最後に負けるのが跡部だったら、きっとすんなり諦めが着くと思ったから。けど、やっぱり悔しいもんは悔しくて。そしたら、跡部にそう言われた。
…ダブルス?考えたこともなかったし、レギュラーに戻ることも不可能だと考えていた俺はその跡部の言葉にひどく驚いた。学年関係なく実力で決まる氷帝レギュラーの座。一度でも負けたらそこで終わり。負けた奴を監督は絶対に使わない。そっから這い上がってきた奴のことなんて聞いたことがない。けれど、その言葉を聞いて氷帝の歴史を変えてやろうと俺は思った。テニスをしたかったから、好きだったから、諦めることなんて俺にはできなかった。少しの可能性しかなくても、努力だけはしようと思った。
だが、俺は皆の様に特別な技を持ってるわけでもないし、目立ってるわけでもない。しかも皆の目の前であんなに無様な試合の姿を見せた。誰も近付こうとするわけがない。
氷帝テニス部に居場所が無くなりかけていた俺とダブルスを組んでくれる奴なんていないと思い込んでいた。

「宍戸さん」

部活終わりに俺の名を呼んだのは、二年にしてレギュラーの鳳長太郎。俺がレギュラー落ちする前から結構仲が良かった。その長身から打ち出されるサーブの速さは、きっとあの青学の眼鏡より速い。こいつは俺とは違い、目立っていた。

「…何だよ、長太郎」

俺がレギュラー落ちしてから初めて話す。いつまでもぐだぐだしてる俺を笑いに来たのだろうか。と内心思ったため眉が少しつり上がったのが自分でもわかった。

「…宍戸さん。俺とダブルス組んでくれませんか?」

耳を疑った。
え?俺を誘いやがったのかこいつは。俺は何も持ってないし、レギュラーでもない。なのに何で俺を?

「お、俺も皆から嫌がられるんスよ!!ほらっ。俺サーブが速いだけで他に取り柄ないし。ノーコンだし…」

長太郎は俯きながらそう言った。

「それに、宍戸さんのこと…。尊敬してるんです」

ポツリと最後につけ足した長太郎は、そのまま顔を上げようとしなかった。レギュラー落ちした、俺を?

「…何言ってんだよ。慰めならいらねーぞ」

だって。そうとしか聞こえなかったから。

「ち、違いますよ!?俺は本気で宍戸さんのことを尊敬しています!だって、誰よりも努力しているじゃないですか!」

長太郎の顔を凝視する。あまりにも必死そうに話す長太郎を見て、見開かれた目が戻ろうとしない。

「朝練に誰よりも早く来て、放課後も夜まで一人で練習しているじゃないですか!部長とか他のレギュラーの先輩だって努力しているのは知っています。けれどあれはほとんど才能です。宍戸さんに才能が無いとは言いませんが宍戸さんはそれに匹敵するよう必死に努力しているじゃないですか…!こんなに努力する人、俺は見たことありません…」

「…長太郎?」

「才能なんかより、努力する宍戸さんの方が俺は敬意を払います…」

「…」

長太郎は顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな顔で訴えた。長太郎がこんなに考えていたなんて、思いもしなかった。

「この前部長にも『ダブルスでなら〜』って言われてたじゃないですか。俺見てたんですよ?だから、ダブルス組んでくれませんか?いや。俺と組んでください。宍戸先輩」

長太郎が真っ直ぐな瞳で俺に言い切った。
がむしゃらにテニスをしていた俺を認めてくれる奴がいた。才能の無い俺を選んでくれる奴がいた。諦めないでいい。
長太郎の言葉が、俺はただ純粋に嬉しかった。また、テニスができる。

「…本当に、いいのか?」

「っ!はい!!お願いします宍戸さん!!」





こうして、俺はまたテニスをすることができた。何もかも長太郎のお陰だ。諦めずにすんだし、俺に居場所を与えてくれた。きっと良く思わない奴もいるはずだろう。けど、そんなのは関係ない。俺は俺のテニスをするだけだ。才能が無くても、それだけ努力をすればいいんだ。どんなことをしたっていい。
俺はもう一度長太郎とダブルスで、レギュラーになってやると誓った。



関東まで、時間がない――。




---------------------------
(長太郎!もう一回だ!!)

(えぇ!?もう勘弁してくださいよ…)

(るせぇ!お前が努力する俺を尊敬するって言ったんだろ!)

(そうですけど…)






とか言いながら二人は二週間猛特訓してたらいいな、って思い書きはじめた小説でした^^











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -