押したり引いたり


※超腐向けです。
お気を付けください。









「跡部、好きなんや…」

この間、忍足にそう言われた。こいつは何を言ってやがるんだ、という目で睨んでやったら忍足は少し悲しそうに笑った。一つため息をこぼした後、「堪忍」と呟きテニスコートへと歩いていった。俺は意味が分からなくてそのまま放っておいた。特別気にもとめなかったし、それからの部活も特に変化は感じられなかった。…はずなのに。

「なぁ岳人。一緒に打たへん?」

「宍戸と鳳〜。ダブルの相手頼まれてくれへんか?」

おかしい。いつもの忍足はペアの打ち合いの時、真っ先に俺を誘いに来る。いつもの忍足はうざいほど俺に構う。なのに、今日の忍足は妙に俺を避けているように感じる。…今までこんなことは、一回もなかった。まぁどうでもいいことだが。

「…樺地、タオルだ」

「ウス」






「……」

「?侑士どこ見てんの?」

「んー…?なんもあらへんよ」








そんな状態が、しばらく続いた。妙に俺を避ける忍足。一日にしゃべる内容も、必要最低限のことしか話さなくなっていた。「んだよお前ら、喧嘩してんの?」と、この間宍戸に言われたぐらい俺達は話さなかった。理由なんて、こっちが聞きたいぐらいだ。なんで忍足は。どうして忍足は。
…あ。
考えてたら、無性に腹が立ってきた。
今まであいつは、俺の行動が気に食わなかったら面と向かって俺に言ってきた。あいつのそういうところを俺は気に入ってたのに。なんだ、今回は。俺を避けるばかりで、喋ろうとも全くしない。

「………うぜぇ」

忍足を睨みながら、俺は一人呟いた。













「忍足、話がある。残れ」

帰り支度を整えたのか、帰ろうとしていた忍足を呼び止める。忍足は少し驚いた様子で俺を見て、「岳人、先帰っとって」と伝えてから部室に入った。忍足の後に続いて、俺も部室へ入った。
部室には、俺と忍足の二人きりだ。





「なんなん?話って」

「あーん?自分でわかってんだろ?」

忍足の微笑がフッと消えて、真剣な表情に変わる。…いや、真剣と言うより、怒りに満ち溢れていた。忍足は、普段あまり怒らない方だ。いつも、注意する程度でとまる。こんなに怒っている忍足を見るのは、初めてと言っても嘘ではない。
部室の近くで別れの挨拶を交わしているのか、女生徒の声が聞こえてくる。甲高い声が、二人きりの部室内に響いた。声と共に赤い日差しが窓から差し込んでいる。
日が、暮れる。

「俺を避ける理由を聞かせろ、忍足」

「…押してダメなら引いてみろ、って言うやん?」

「は…?何を言ってやが…!!」

刹那、腕をつかまれ一気に忍足の顔が近くなる。ぶつかる、っと反射的に目をぎゅっと瞑ると寸前で止められたのかぶつかった感触はなく、「無理矢理は、嫌やったんやけどな」という言葉だけが耳元で囁かれる。何が起こったかわからない俺は急いで目を開いた。けど、ただ目の前にあったのは忍足の顔で、長い睫毛が俺の顔に当たっていた。唇が生暖かった。息が、できない。首と頭を固定され顔が動かない。忍足の胸を叩いたり、押したり、抵抗をしてみるものの忍足はびくともしない。

「……っ…、ふっ……!」

苦しい、苦しい。遂には舌までが乱入してきて口内を舐めまわす。苦しさに耐えきれなくなった俺は忍足に縋り付いたままその場に崩れ落ちた。

「なっ…何をしやが…る…!」

解放はされたものの、抵抗する力は残されていない。息だって、全然整わない。屈みこんで俺と目線を合わせる忍足。キッと、肩で息をしながらできる限りの力を振り絞って睨み返した。
すると忍足は俯いて、今にも泣き出しそうなか細い声で俺に話しかけた。

「跡部は、何とも思わんの?」

「……?」

「俺が岳人や宍戸と仲良うして、跡部と何も話さんで。何とも思わんの?」

"好きなんや"

言われた言葉を思い出す。言われた時は何も思わなかった。けど、忍足が俺を避け始めてから無性に腹が立ったのは事実。

「好きや、跡部。どうしようもないくらい」

耳元で囁かれる。
途端、全身にものすごい勢いで熱が回るのがわかった。
目を、見開く。
まさか、まさか、まさか。
考えがまとまらない。
忍足は俺が好きで、でも俺はなんとも思わなくて、だけど忍足が俺を避けると腹が立って、……は!?




「クッ…」

顔の横で、忍足の肩が揺れた。こいつは、笑ってやがる。

「やっと気付いたんか、跡部」

さっきまでのか細い声とは裏腹に、勝ち誇ったかのような顔で俺を覗き込む。スクッと立ち上がり、「攻めるん遅いわ」と俺の頭に手を乗せ少し撫でた。
俺はただ、その場に座り込むことしかできなかった。
さっさと荷物を持ち帰り支度をする忍足。扉の方へ向かい、ドアノブに手をかけたとこで立ち止まる。体を俺の方へ向き直し、いつもの笑顔でこいつは言った。

「他の奴の前でそんな顔したらあかんで…?…耳まで真っ赤や」

扉が閉まる音が部室内に響いた。
さっきまで赤かった空は、もうどっぷりと日が暮れて真っ暗だった。

"好きや、跡部"

思い出すだけで、顔がすごく赤面するのが感じられる。





口内に残る熱を、もう一生忘れることはできないと感じた。




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まだ、自覚をしていないあの頃。











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