地獄の事業仕分け
「しゃーないんで始めますわ」
財前のその一言で地獄の第一回四天宝寺中事業(?)仕分けが幕を開けた。
「とりあえず今のままでは部費足らんのっスわ。このままじゃおニューのネットもボールも買えんわっ。オサムちゃんに任せてたら全部馬券につこうてしまいそうなんで…。しゃーないんでとりあえず俺が引き受けますわ」
「待てぃ!!」
財前の説明を遮って話に入ってきたんは
…部長の白石や。
「そういうのは俺の仕事や!なんで財前が」
「あんたが一番無駄多いんスわ。口では無駄がないようにやら絶頂やら言うてるくせに…。それでもまだ自分がやると言い張るんスか?」
「ごめんなさいすいませんお任せします」
「まっ。やるからにはちゃんとやるんで。安心しとってください」
すると財前は紙をペラペラめくりながら部費の使い道の確認をし始める。
それを財前以外のR陣は息をのみながら財前が話すのを待っとる。
銀と小石川は全く無駄があらへんからこの事業仕分けには関係ないと思うて俺が先に帰らしといた。
財前がぴたっと手をとめた。
ある人物をえらい三白眼で睨みよるわ。
「……ユウジ先輩」
「なんや?」
「この『小春へのお花』ってなんスか」
「言葉の通りや!毎日毎日小春に合うお花を考えて俺が小春にプレゼントしてるんやっ!!」
「そんなどや顔で言わんといてくださいうっとうしい。ちゅーか必要ないんで却下。個人的にもむかつくので却下」
「まぁそやね。私は別にお花なくてもええし…。部の為やもんね…」
「こ……小春ぅ………!なんて優しいんや!!自分が美しなるよりも部の為を思うなんて」
「はい。まず1人目終了っスわ」
おーおー…。
ようやりよるわこいつ。
俺がやらんで正解やったわ。
後でこけしやらなあかんなぁ。
「こ…こいつ容赦ないでぇ…!」
「謙也さんうるさいっスわ。じゃあ次は謙也さんで」
「お前絶対適当やろ!」
「謙也さんは…と」
財前はいつもと変わらん様子で四天宝寺中事業仕分けを進めた。
財前のページをめくってた手がまたもやぴたりと止まる。
「謙也さん…」
「なななんや財前。俺は無駄遣いなんか」
「スピーディーちゃんの飯代は自分の金で買うてください。もうこれ犯罪っスね」
「!!それだけはやめぃ!その金があらへんと俺のスピーディーちゃんは」
「はーいっ。次の人行きまっせー」
開始してからなんと10分足らずで部室のはしっこに膝を抱えて沈んどる奴を2人も作りおったわ…。
さすが天才財前くんやなぁ。
この後がどうなるか楽しみやっ。
「じゃあ…次は…。ロッカーの後ろに隠れとるつもりやろうけど大きすぎて隠れきれてない千歳先輩で」
「な!俺は何もしてなかと!!」
「内緒にしとるつもりでもこっちは全部お見通しっちゅう話っスわ」
「………っ!!」
「まぁその様子やと自分でわかってるようなんで…」
「いやいやいや!ジブリのDVDなんか俺は買ってなか!!」
「……………」
あぁ千歳が哀れな目で皆に見られとるわ。
千歳自身自白したことに気付いてへんし…。
しかもDVDて結構値はるやん!
何してんねんあいつ!
「ほな千歳先輩はおいといて次は…」
「私やったらどないしよ〜…」
「わいが守ったるで小春っ!」
「金ちゃんは頼もしいなぁ」
…残るは全く緊張感ないあの3人。
小春と金太郎と白石や。
そういえば財前は全く無駄遣いしてへんのやろか…。
………………まぁええか。
「金色先輩」
「えぇ〜っ!?私なんもつこうてへんよ!?なぁ……ひ・か・る?(はぁと)」
「先輩ほんまキモいっスわ。その語尾のハートが特に」
「んもぅ!つれへんのやからぁ…!」
「んで金色先輩は…美容道具とかカツラはどうぞご自分で買うてください」
「まぁしゃーないわなぁ…。わかったわ光っ」
「話わかる人が1人でも残っててもろて良かったっスわ」
「あら!光ったらぁ…(はぁと)」
「はいじゃあ次ー…。遠山」
「えぇーっ?わいーっ?」
「とぼけんなや何が『わいー?』や。お前のがいちばんどーでもえーわ」
「はぁ?わいはどーでもえーもんなんか買うてへんっ」
「じゃあもうたこ焼きはなしやな」
「いやーやーっ!!たこ焼き食うーっ!!」
「そない食いたいなら自分の金で買うか部長に買うてもろたらええやないかっ」
「あ!そっかぁ!白石ぃーっ!!たこ焼き買うてーっ!!」
(財前の奴…。俺が断れんの知ってて言いやがったな…)
財前と白石の間には金太郎にはきっと見えてへん火花が散っとるんやろなぁ…。
財前もプライドが高い奴やわ。
白石の財布…明日にはもうすっからかんやろなぁ…
………おいたわしや…
「ほな部長…。あんたの番や…」
「俺は完璧主義者や…。余分な金を使わんことは俺のモットーや!んんーっ!絶頂ーっ!!」
「じゃあこの健康グッズの山はどない説明するんスか?」
「………おん?」
「なんや試合に勝つためやら筋肉つけるためやら言うては色んな健康グッズを買うては部室にためて…。ぶっちゃけつこてるの部長だけっスわ」
「んなことないで!自分らの為を思うて俺は」
「俺らつこうてないんで。もう買わんといてくださいねっ」
あぁ…。
これで全員真っ白に燃え尽きてしもたわ…。
もう皆壁のはしっこに寄りすぎて逆に気持ち悪いわ。
ほな俺もそろそろ退散……。
ん?
「待ちぃや財前………」
「は?」
「まだ終わってへんでぇ…。財前が残っとるやろ?なぁ財前…?」
「……部長…」
おぉ!
なんやおもろい展開なってきたやないか!!
白石も言われてばっかは気にくわんっちゅう話やな…。
「ほな天才財前くんも説明してもらおか。このぜんざい代…」
「俺ぜんざい食わんと禁断症状出るんスわ。急に白目むいてガタガタ震え出して…それはそれは可哀想な姿に」
「自分で可哀想言うなや!とりあえず…自分だけ逃げるゆうんはさすがに卑怯やろっ!」
「……えーっ」
「えーっちゃうわ!!今まで散々言うてきて…!ぜんざい代は自分で出す!わかったな!」
「ちぇ、まっしゃーないっスわ」
…終わり…やな。
これで大分部費の無駄遣い減るやろなぁ。
財前もよぉやってくれたし…。
帰ってビールで1杯っちゅうとこやな!
「…ほな部長」
「あぁ財前…。ほら皆も」
「せやね…」
「わかっとるばい」
「簡単には行かんっちゅう話やわ」
「死なすど…!」
「もぉいややぁ!!」
あ…あれ?
なんか皆こっち向いて歩いてきよるわ…。
しかもなんやえらい怖い顔して…。
ガラッ
「自分だけ逃げようなんて…卑怯やなぁ。オサムちゃん…?」
「は…ははは。白石…。気付いてたんか…」
「オサムちゃんの出費がいちばん高いんやで…?そんで逃げれるとか…思ってへんよなぁ?」
「俺はなんもしてへんで…!」
「お馬さんと仲良くなる券は自分で買うてや!」
「…………!!」
ぎゃああぁぁぁぁぁぁあああ…
「…なぁ銀」
「う…うむ…」
「このオサムちゃん…どないしたらええと思う?部室ん前で倒られても朝練の邪魔なだけやのに…」
「………哀れやな」
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(…ほっとこか)
(…せやな)