千歳生誕記念
12月31日。一年を締め括る一大イベントの大晦日。そして、俺の誕生日でもある。
…まぁ今日皆からメールが来るまで忘れちょったこつは内緒にしとっと。
去年はテニス部の皆が来て朝までずっと騒いでいたが、今年はさすがにそうはいかない。なんたって受験生なのだから。俺はまだ詳しいことは決まっていないし、別に高校に行きたいとも思っていないので気が楽な方だ。本音を言えば今年も皆でどんちゃん騒ぎで盛り上がりたかった。だがやはり皆は高校進学組らしく、白石なんかはかなりレベルが高い進学校に行くと言うもんだから驚きだ(どんなレベルなのかは俺には理解できんかったばい)。
俺は考えていても何も決まらないので時々部活に顔を出していた。それを他の皆が羨ましそうに見てきたこと、財前に心の底から心配されたことをよく覚えている。むぞらしい後輩たい!
「…今頃皆何しちょるんやろ」
気付けば、ふと呟いていた。
皆でテニスをしていた、騒いで笑っていた日々が、懐かしい。もう、そう思う時まで来てしまった。そうやって過ごしてきた年が、もう少しで終わろうとしていた。
去年と全く違う風景に、環境に俺は寂しく感じた。来年はもう一緒には居られないのに。
俺が感傷に浸っていると携帯のバイブが机の上で響いた。驚き画面を見ると、そこには「メール 1件」の文字。誰からだろうと確認してみたら差出人は白石だった。
(白石から…?)
白石は今受験勉強に励んでいるはず。況してやメールをするなど言語道断!と、冬休み前には叫んでいたのに。その当の本人からメールが来るとは驚きだった。
メールを開き内容を確認すると、そこにはたった一文で
<<飴ちゃん、食うたか?>>
と書かれていただけだった。
(飴ちゃん…?…あ!)
そういえば、と思い出す。まだ学校が冬休みに入る前、何故か皆が飴玉を一つずつくれたことがあった。それはまだ部活をしてる財前や金ちゃんからもだった。制服のズボンのポケットに入れっぱなしだったのを思い出しズボンを漁る。
コロン、コロンと次々に飴玉が転がり出てきた。皆から一つずつだから、全部合わせて八個の飴玉が出てきた。今の今まで忘れていたんだから一つも減っていることはなかった。
とりあえず白石に返信をしようと思い、
<<食っちょらんけど…。>>
と打ち返した。そしたら直ぐに、
<<あほ!早よ食えや!!>>
と返事が返ってきた。
俺は全く意味が分からなかったが、首を傾げながらも白石の言う通りに飴玉を口に放り込んだ。
一つ二つ…。目の前にあったいちごやレモン味のカラフルな飴玉はどんどん減っていき、それとは逆に飴玉を包んでいた紙だけが残っていった。
最後の一つを口に放り込み、カサカサと音をたてながら紙を集める。結局、何やったんやろ…と思いながら重い腰をあげゴミ箱へと向かう。
捨てる、本当に直前。俺は飴玉を包んでいた紙に何か書いてあることに気付いた。
「?…何ね一体…?」
確認してみると、一枚に一文字ずつ何か書いてあるらしい。そして浮かび上がるのは、
「誕…生日…おめ…で…とう…」
だった。気付いたと同時に、再び携帯が震えた。今度は白石からの電話で驚いたが急いでボタンを押し、
「し…白石…!?」
<<もう見たか千歳?今年の誕生日は去年みたいに受験もあって皆で祝えへんからな。皆で話し合ってこれに決めたんや。これなら皆で祝ってる感満載やろ?誕生日おめでとさん、千歳>>
「う、嬉しか…!こげんこつ嬉しいん今までで初めてたい!!」
<<ははっ。大袈裟やなぁ千歳>>
「正直…。忘れとると思っちょったばい…」
本当に。皆きっと自分の誕生日など忘れてしまってるんだろうと思ってた。だけど、そんなことは全く無くて。むしろ真剣に考えていてくれていて。
泣きそうだった。
変な力が入っていたのが一気に抜けて、ただ単に嬉しくて、
<<あほ。んなわけあるかい!!…まさか千歳。そんなしょーもないことで正月越す用意何もしてへんとか言わへんよなぁ…?>>
「そ…!しょーもないこつじゃなか!!俺は真剣に…!」
<<あーはいはい。何も用意してへんのやな。…呼んでおいて正解やったな>>
「…は?」
白石がそう携帯の向こうで呟いたと同時に、チャイムの音が俺の耳に届いた。
<<こうなる思てな。千歳の面倒見てくれ頼んどいたんや>>
携帯を耳に当てたまま玄関の扉を開けると、そこには受験には関係ない二人、鼻の頬を赤く染めた財前と金ちゃんがいた。
「ちっとせーっ!!誕生日おめでとーっ!!!」
「おめでとうございます。これ材料買うてきたんで早よ皆で飯作りましょ」
「ど…どげんして…!」
「白石が言うたんやで千歳!」
「どーせ先輩は一人やったら何も食わんから言うて部長にお使い頼まれたんすわ。…とりあえず家あげてください寒い」
「あ…あぁ…」
<<ちーとーせーっ?>>
ドカドカと上がり込んでいく二人に呆気に取られていたら白石が俺を呼んだ。それにハッと気が付き急いで相槌を打つ。
「な、なんね白石?」
<<もう大丈夫やな。あとはあの二人に任せることにするわ。まぁ他の皆からも連絡来る思うし。ほなまた学校でな、千歳>>
白石が携帯の向こう側で微笑んでいるのが手に取るように分かった。
そんな白石に、俺は言わなければならない。
「し…白石!」
<<ん?>>
「あ…。ありがとう…!!」
本当に、心の底から気持ちを込めてお礼を言った。自分は一人じゃない、って気付かせてくれたから。本当に本当に、嬉しかったから。
<<当たり前やろ?ほなっ!>>
そう言って、白石との通話を切った。
向こうの部屋の方では、財前と金ちゃんが夕食の準備をせっせと始めていた。
「先輩ーっ。早よ来てください。食器どこにあるんかわからんのですけど」
「早よ来んと全部食べてしまうでーっ!」
大きい声で叫ぶ二人を見て、俺は二人に微笑んでお礼を述べた。
「二人とも…、ほんまにありがとう!!」
遠くの方で除夜の鐘が鳴ったのが聞こえた。
俺にとって最高な年が終わり、俺にとって最高な年が明けようとしている。
俺は何て幸せ者なんやろう、と心の中で幸せを感じた。
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HappyBirthday 千歳!!