七転び八起き






「ハァ…ハァ…」

「っ…仁王くん…!!」

「もう一度じゃ……柳生」

立海テニス部のコートには私と仁王くんの二人だけ。理由は単純。今日の天気がものすごい豪雨だから。空は真っ黒な雲に覆われ本当に昼なのかと疑うくらい太陽がどこにあるのかも分からない。
さすがの幸村くんも「…無理だね、今日は」と納得のいかないような顔をしながら部員の前で一言伝えて帰っていった。
他の部員もぞろぞろと帰る中、あなただけが部室の真ん中で立ち竦んでいた。

「どうかしましたか??仁王くん」

「…柳生。付き合って、くれんか??」

何をかと尋ねれば、仁王くんは真剣な表情で強くなりたい、と言った。

彼は最近イリュージョンに目覚めた。自分のテニスができない、分からない、と悩んでいた彼に私が言った一言。

「仁王くんは…、人になりきることがお上手ですね」

そこから導きだした答えが、このイリュージョンらしい。
それからの彼は、すごかった。
色んなプレイヤーの資料を集め、観察し、研究し、体験し、それはもうまるで、依存してしまったかのように寝る暇も惜しんでやっていた。もちろん私もそれに協力したし、データの提供もたくさんした。
彼は、誰よりも疲れていたはず。観察することは、試合を一回することよりももっと大変なこと。と、何かの本で読んだことがあった。それは、他の部員皆も承知していたことだった。
データの研究で疲れている上に部活の練習。そして更に彼は雨で休みなのに練習に付き合ってほしいと私に頼む。
もちろん私は、首を縦に振った。
が、この練習はあまりにも過激すぎる。これ以上したらあなたの体がもたないでだろう。只でさえボロボロな体なのに、なんで、こんなに。

「…仁王くん!!もう止めましょう!!頑張りすぎですよ!!これ以上したら、君の体が…!!」

「……そうか。付き合わせて悪かったのぅ。先に帰っていいぜよ。俺はまだやってくナリ」

「…っ!?」

信じられない。なんだ、この男は。どうして、そこまでして――。

「何故そんなに頑張るんですか!?何故そんなにあせるんですか!?まだ時間はたっぷりあります!!だからっ!!!!」

「…自分のテニススタイルで悩んどったとき、本当に俺はどん底状態じゃった。…この立海テニス部で、こんな奴がおってもええんか、おってもおらんくても同じなんとちゃうんか。ずっとそう考えとった…!!ブン太や柳生みたいに特別な技が使える訳でも、ジャッカルみたいに特別スタミナがある訳でもない!!こんな奴…!!こんな奴立海テニス部なんかにはいらん!!ずっとそう思っとったんじゃ!!」

今にも泣き出しそうな声をあげながら彼は一気に吐き出した。そして、続けた。

「そう思ってた時に、柳生が言ったぜよ。『人になりきることがお上手ですね』…とな。その言葉に、心底俺は救われたんじゃ。俺にも出来ることがある。ならこれを武器にしよう…ってな。」

「仁王くん…」

彼の顔が、雨に邪魔をされて見えなかった。雨は勢いを増すばかりでやむ気配さえも見せない。

「データをくれる柳生、練習に付き合ってくれる柳生、そんな言葉を俺に言ってくれた柳生、…柳生には本当に感謝しとる。」

彼の顔がパッとあがり、目が私の目を捉えた。私の目をただ真っ直ぐ見据える。
きっと、見ているのは私ではない誰か――。

「…だから頼む、柳生。強く、なりたいんじゃ…。もう少し、付き合ってくれんか…」

彼は全身びしょ濡れで、濡れた頬は雨で濡れたものなのか涙で濡れたものなのか全く分からなかった。

「たくさん悩んで、たくさん立ち止まってたんじゃ。…その分の時間を、……取り戻したい」

その声はもうほとんど雨に掻き消されて何を言ってるのかいまいち分からなかった。が、彼が自分のプレイスタイルを見つけたことは事実。

それなら私はあなたの気がすむまで練習に付き合いますよ。
立海テニス部が誇るD1のパートナーなんですからね。




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七転び八起き(ななころびやおき)
→何度失敗しようとくじけることなく、心を奮い立たせてがんばること。また、人の一生が波乱に満ちていて浮き沈みの激しいことのたとえ。




分かりにくい小説ですみません…。これは仁王がイリュージョンに目覚めて(?)すぐ後のお話です。自分のテニススタイルに悩んでいた時間を惜しく感じて練習に励む日々。それを心配する柳生。
そして仁王はもっと強くなりたい、もっと強い相手を倒したいと思っています。
…本当に分かりにくくてすいません。また書き直すかも…です。

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