呼び方






それはある日の休み時間。次の授業で抜き打ちテストがあるって教室の真ん中で女子が騒いでいた。


やっべ。
机に答え写さなきゃ。


そう思いながら鞄の中に放り込んである教科書を取り出そうとした時だった。今まで爆睡していた仁王が後ろの席から俺のことを呼んだ。





「ブンちゃん」

「なんだよぃ」

「丸井」

「…は?」


仁王は机に張り付いたまま何故か俺の名前を色んな呼び方で呼んだ。


「ブン太くん。丸井くん」

「仁王くーん?大丈夫ぅ?」

「豚」

「怒るぞてめぇ!!」



「何て呼べばいい?」



「はぁ?」


仁王が顔を上げて俺に言った。珍しく仁王は少し真剣な顔だった。


「俺はお前さんのこと。何て呼べばいいんじゃ?」

「今まで通りでいいんじゃねえの?」



俺は早く答えを机に写したくて適当に言葉を返した。



「真面目に答えんしゃい」

「俺は仁王みたいに頭良くねーの。だから答え写さなきゃ1問も解けねーの。わかってるだろぃ?」

「雅治」

「もうなんなんだよぃ!?」



俺は少し腹をたてながら仁王の方に体の方向を変えた。



「雅治って呼びんしゃい」

「…仁王?」

「………」

「ま……雅治?」

「なんじゃい」

「…お前本当に今日おかしくない?」

「ひどいことを言うのう。俺はいつだって真剣じゃき」

「どの口が言うんだよぃ」

「俺は『雅治』がいい。お前さんは?」

「?なに?雅治って呼んでほしいの?」


俺がおどおどしながら聞くと仁王は大きく首を縦にふった。




「お前さんは?」

「は?」

「何て呼んでほしいんじゃ?」

「別に…仁王の好きなように呼べばいいだろぃ」

「…そういう訳じゃないんじゃけれども」

「?じゃあどういう意味…」


仁王に聞こうとした途端次の授業を始める知らせのチャイムが学校中に鳴り響いた。それと同時に先生が扉を勢いよく開ける。




「テストやるぞーっ」

「!?仁王のせいで答え写せなかっただろぃ!!」

「……zzzz」

「っ!?こいつ…!」


結局その日の抜き打ちテストの結果は俺はもちろん惨敗だった。







仁王の結果も決して良いとは言えない点数だった。















…あいつがこんな点数とるなんて珍しいな。
何かあったんだろうか。




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(相変わらずブンちゃんは鈍いのぅ…)











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