蜜空間 | ナノ

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そして結局、手を掴んだまま暫く歩き続けることとなった。どうやら神田さんは人気が少ない所に行きたいらしい。だが如何せん神田さんは有名人だ。遠目からでもあまりにも目立ってしまっている。
しかもその国民的スターが得体の知れないデブと手を繋いでいるときた。そりゃ目立つよ。目立ちまくるよね。
あれ?
というか、何で手を繋いでいるんだっけ?


「おい」

そして辺りに人が居ない所まで来ると、神田さんは俺に話掛けて来た。しかもどうやら他の人が居ない所為か素のままだ。何故俺には猫を被ってくれないのだろうか?俺も一度でいいから爽やかな笑みで話し掛けられたいものだ。


「てめぇは一人でフラフラしてんじゃねーよ」

「…え、?」

しかも第一声がこれだよ。酷い。
あまりにも鬼畜過ぎる。


「誘われたら誰にでも尻尾振るのか?」

「…へ?」

おまけに俺には神田さんの言葉が理解が出来ない。
尻尾?そんな物は俺には付いていないぞ。
それにそういうのは大体女の子に言う台詞じゃないのか?男の俺に言う台詞ではないはずだ。

もしかしたら神田さんなりの冗談なのかと思い表情を窺ったのだが。彼の表情は真剣そのもの。というか若干の怒りさえも感じ取れる。どうやら冗談ではないらしい。

「あ、あの…?」

「あ゛?」

「…え?」

俺が、悪いのか?
一人でフラフラしてたのも神田さんの周りに人が居たから近寄れなかっただけだし、折角誘われたのだから断ることなどはしない。

それより何故。


「…お、怒ってるんですか?」

神田さんからしてみたら俺なんて近くに居ない方がいいはずだ。だって邪魔に決まっている。
それに俺なんかでは神田さんの引き立て役にもならないはず。というか彼にはそんなものいらないだろう。

でももしかしたら神田さんには面倒見のいい所があって、だから心配になって俺の事を探しに来てくれたのかもしれない。
それなら俺は完璧に邪魔者じゃないか。


「俺、…他の所に行きますよ?」

それとなく俺は一人でも大丈夫だとアピールしてみた。そうすればこれ以上神田さんに迷惑を掛けなくて済むはずだ。


だがどういう訳か、それは悪い方に捉えられてしまったようで。


「あっそ。何処にでも好きな所に行けよ」

さっきの男の所でも行って来いと言いながら、神田さんは眉間に皺を寄せ、掴んでいた俺の手を乱暴に振り落した。


「……あ」

強く掴まれていた手が離され確かに自由になった。
これで言われた通り好きな所に行けるだろう。


「………」

先程の男の人達の所に行けば、きっと歓迎して貰えると思う。だってこんな俺にも凄く優しかった。
短気で俺様な神田さんと居るよりずっと優しくしてくれるはず。とても楽しい一時を過ごせるだろう。


「………」

だが。
なくなった手の温もりが妙に寂しい。
そういえば手を繋いだのなんて何年振りだったのだろうか。


そして。
俺は頭で理解するより先に、なくなった温もりを求め走っていた。


「…待って、」

「………」

神田さんの一歩後ろまで走り、その大きくて温かい手を今度は自分から掴んだ。振り払われない事に安堵し、更に強く握る。


「神田さんの…」

好きな所に行けと言われた。
それならば神田さんの隣でも文句は言われないのだろうか。


「神田さんの、隣でも…いいですか?」

「……ふん。好きにしろって言っただろ」

恐る恐る訪ねてみればどうやら了承を得れたようで。

再び握られたその手は隙間なく繋がれた。
何故だか分からないが、俺はその温もりに凄く安心した。




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