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「……へ?」
舐めた?
え?ちょっ、待って。今、舐めたよね?
俺の勘違いや見間違いではなく、確実に俺の頬に舌を這わせたよな?
その現実がやっと理解出来た俺はというと。
「ぎゃ、ギャー…っ!」
上に乗っている神田さんを蹴飛ばす勢いで暴れた。
「色気のねぇ声」
しかし神田さんはというと俺の上から転げ落ちるどころか、余計に足に力を入れて俺の身体をガッチリとホールドした。
ちょっ、ちょっと!離せよ!退け!
俺に色気なんてあってたまるか。俺には食い気だけで十分だ。
それに何が「甘酸っぱい」だ。あんたの言動の方がよっぽど甘酸っぱいよ!こんな過激でデンジャラスなシチュエーション、ギャルゲーでも中々見つからないよっ(あ、でも男同士ならBLゲーになるのか?俺したことないからよく分からないけれど)。
「ちょっ、本当に……離して…っ」
「やだ」
「…な、何で……、?」
「お前が嫌がってる所見るの楽しいから」
「……っ、」
ああ、なるほどな。分かったぞ。
こいつ根は優しいんだろうけど、それと同じ以上に意地悪なんだ。あんたの言動に感動して泣いてしまった俺の涙を返せっ。
「本当、勘弁してください…」
俺たちは二人きりのようで二人きりじゃないんだよ。この一部始終は監視カメラの向こうの人たちに丸見えなんだぞ。万が一にも誤解されてしまったらどうする。神田さんだってそれは嫌だろ?男でしかもデブと熱愛報道なんて…。
それに俺だって勘違いされたくないんだよ。
もしカメラの向こうの人たちが神田さんの大ファンだったらどうする?逆上されて、刺されちゃうかもしれないだろ?!
「ど、退いてください…っ」
「食べ物を粗末にするといけないんだろ?」
「そ、それはそうですけど…、もう…どうしようもないじゃないですか…」
「だから食しただけだろうが。暴れんな。食わせろ」
「は…ぁ?」
再び近付いてきた神田さんの顔を俺は押し返した。
何考えてるんだ、この人は。わざわざ俺の頬に付いたヨーグルトなんて舐める必要ないだろ。いくら俺が太ってたって、俺の肉は食えないぞ。
「そ、そんなにいうなら床に落ちてるの舐めればいいじゃないですか…っ」
これ。
俺なりの精一杯の抵抗であり反抗。
こう言えば、素直に止めてくれると思ったんだけど、やっぱり神田さんは普通とは少し違った。
「はっ、俺に床に這い蹲って舐めろと?」
「………」
「やり方分からねぇな?手本見せろよ」
「ちょっ、うわ…っ?!」
俺の上からやっと退いてくれたかと思えば、神田さんは今度は俺の身体をうつ伏せの状態にし、更に俺に膝を付かせ、四つん這いの格好にした。そして神田さんはというと、背後から俺の腰を抱きかかえている感じ。
……え?何かこの体勢エロいと思ってしまったのは俺だけ?
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