2
次の日。
目が覚めると、俺の分の朝食と昼食と夕食がテーブルに置かれていた。
「(いったい、俺は何時間眠っていたんだ)」
というよりも、いつ神田さんから解放されたんだろう。昨日は前回の事があったからか、誰も助けに来てくれなかったし…。これって此処の職員の人達には、俺達のただならぬ関係(セフレ?)が知られているということか?
「………何それ、死にたい」
ハァと深い溜息を吐きながら、薄い掛け布団をどかして身体を起こす。
そうすれば。
「……ん、起きたか?」
切った爪先に息を吹き掛けている神田さんに声を掛けられた。
「水飲むか?」
「は、はい…」
「ほらよ」
「…ありがとう、ございます」
冷たいミネラルウォーター。
昨日何時間も泣き叫んでいたせいで声が掠れて痛んでいたので、この気遣いは正直有難かった。……とはいえ、その原因を作ったのは、紛れもなくこの人なんだけどね。
「…………」
「…………」
「…………」
…だけど。
昨日は自分からも、おもいっきり強請った記憶があるため、強く責める事は出来ない。出来る事ならば、この腐りきった記憶が消えていれば良かったのに…。現実は、厳しい。
つーか、なんだよ。
「みさくら語で神田さんをドン引きさせよう!おー!」なんて作戦を立てた、あの時の俺馬鹿じゃないの。変態の神田さんが、あれで引くわけがないんだよな。あの時の神田さん、めちゃくちゃハッスルしてたじゃん。
俺は、策に溺れたというわけか…。
「あ、あの」
「…何だ?」
「いえ、何でそんな丹念に爪を切っているのかなぁって思って」
さっきからずっと気になっていた。
芸能人たるもの、歯だけではなくて、爪も大事ということか?だけど今まで一緒に過ごした中で、こんなに丹念に爪の手入れをしている神田さんを見たことはない。
「…俺は爪なんて、伸びた時に適当に切ってるだけですよ」
「ふーん。切ってやろうか?」
「え、っ?……怖いから、遠慮します」
「あ゛?」
「い、いえっ、じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなー」
怒られるより先に媚びる様にそう言えば、神田さんは満足そうに鼻で笑った。
「最初から素直に言えばいいんだよ」
「……(解せぬ)」
「そのまま座ってろ」
「…はい」
未だに布団の上に居る俺。
神田さんは一応俺の身体を気遣っているようで、俺を一歩も動かす事なく、爪を切る準備をしてくれた。
prev / next