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新規短編 教師(加藤)×生徒(宮田)



“皆もやっているから大丈夫”

“上手くやればバレるわけがない”


そんな甘い考えで不正を働いてしまった数時間前の自分を力の限りぶん殴ってやりたい。
……だが悲しいことに、どんなに願っても過去に戻ることはできない。


「…ご、ごめんなさい」

「…………」

だから俺は、生徒指導室に呼ばれるな否や、加藤先生の顔を見る余裕もなく、少し埃っぽい床に額を付けて土下座をして謝罪をした。

「本当に、すみませんでした…っ」

「…………」

「…ぜ、絶対に二度とあんな真似はしません……っ」

「…………」

『あんな真似』というのは、『カンニング』のことだ。
いつもはギリギリ平均点を保っていたのだが、部活で念願のレギュラー入りが決まってからは全く勉強をすることなく練習に励んでいたため、授業にもついていけないほどに俺の成績は落ちてしまっていた。

「(…赤点取ったら部活に参加できなくなるからって、カンニングがバレちゃったら、もっと最悪じゃんかよぉ……)」

俺の今後の行く末は停学だろうか?
……それとも、退学…?

どちらにせよ、もう二度と試合にも大会にも出場できないのは決定事項だろう。

「………ぅ……っ」

じわりと、目元に涙の膜が張る。

「(……や、やば。涙が零れる……ッ)」

自分が100%悪いのに泣くなんて情けない真似はしたくない。
そう思った俺は、目元に溜まった涙の粒を零さないように反射的に下げていた頭を上げた。


「…………っ、!?」

……その時だった。


「せ、先生…?」

本能的に俺は、目の前に立っていた先生の様子がおかしいことに気付いた。

「…あ、う……ぁ、えっと……?」

「………」

確かに俺は馬鹿なことをしてしまった。
どんなに謝罪の言葉を述べようが、反省しようが、罪を犯したことには変わりない。

………だけど、いくら俺が犯した罪に怒っているからといって、こんな射抜くような目で俺を見下ろす必要があるだろうか。

「…………っ、」

俺は得体の知れない恐怖を感じてしまい、床に尻を付けたまま後退った。

………しかし、

「逃げるな」

「…ッ……」

距離を置くよりも先に、今まで沈黙を貫いていた先生が低く重みのある声で俺の動きを制す。…これまた授業中に聞く声とは少し違っていて、俺はその声にビクッと身体を震わせて指示通りに動きを止めた。

「……せ、んせ…」

「今逃げれば、この一件を職員会議にかけるぞ。そうすれば、必然的にお前の部活の顧問にも知られるだろう」

「…え?ほ、他の先生は知らないんですか?」

「ああ」

「………なん…で……?」

「宮田が根は真面目で、賢い奴だということは俺は知っている」

加藤先生の授業を受けるのは一週間に三回くらいしかない。それ以外に特に目立った接点などないはずだが、それでも厳しく生徒たちに恐れられている先生から認めてもらっていたというのは素直に嬉しい。

「(…それなのに俺は、その信用を裏切ることをしたんだ)」

申し訳なくて、悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて…、俺は下唇を噛んだ。

「……ほ、本当に…ごめんなさい。………俺、…俺…取り返しのつかないことを…っ」

再度零れそうになる涙の粒を流さないように、必死に耐える。
そうすれば、先生は口角を上げて、見たことのないような笑みを浮かべ、こう言った。

「取り返しがつかないなんてことはないだろ」

「…………え……?」

「お前がカンニングをしたことは、他の教師も生徒も知らない。…知っているのは俺だけだ」

「………?」

……俺は先生が何を言いたいのか分からず、首を傾げる。
するとそんな俺を見て、先生はまた笑みを見せた。

「その身体を使って俺を誑かせてみろ」

「……!」

「……なーに。お前は“賢い子”だ。どの行動を取れば最善なのかは、もう分かっているはずだろ?」




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