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チャラ男会計の受難、成瀬×充でパロ/ボケ×ツッコミ/同年代設定


芸能という世界は恐ろしい所だと改めて思う。だって生き残れるのは僅かひと握りだ。上下関係の厳しさはもちろんの事、この世界に生き残るだけでも難しい。これはどの業界でも言える事だろうけれど、此処は他と比べても断然厳しいと俺は思っている。ただ単に才能があっても駄目だし、面白いだけでも駄目だ。生き残る術全てを使い切って、上の人達に取り入らなければ生きていけないのだから。

そして何より。
自分に合ったキャラクターを作り上げ、視聴者を見方に付けなくてはいけない。


「相変わらず、充と成瀬は顔は良いけど中身が残念やなー」

「ちょっと先輩酷いですよぉ。なっちゃんはともかく、俺は普通ですって」

「充は黙ってれば格好良いのに、喋るとただのチャラ男やからな」

先輩達がガハハと下品に笑う。俺は「もう、酷いですー」と語尾を伸ばして怒った反応を示しながらも同じように笑う。そうすれば観客席に座っている人達も和やかに笑ってくれた。まぁ、この場に居るという事は少なからず俺達二人のファンも居るという事だ。すぐに一緒に笑ってくれるし、今日はやり易くて比較的楽な仕事だよなと考えながら隣に座るなっちゃんを指さした。

「俺なんかより、なっちゃんの方が酷いんですよぉ」

「どうしたどうした?聞かせてみ?」

「こんなキツイ表情してるくせに、口を開ければいっつも変な事ばかり言うんですもん」

「充、キツイは余計だ」

「えー。だって本当の事じゃん。大体下ネタか、とぼけた発言ばかりだよね」

「…そうか?」

“下ネタ”と言うと、女性客達がキャーと色めき立った。
よしっ。食い付いた。作戦通りだ。

「そうそう。でも変な奴ですけど、俺はなっちゃんと組めて本当に良かったと思ってるんです」

好感度を上げるために、ここは敢えて語尾を伸ばさず真面目に語る。でも九割以上本音だから何も嘘は吐いていない。

「そういうのはいらんねん。ここカットな」

「えー?!ちょ、ちょっとせんぱーいっ。酷いですよぅ」

「あははは。冗談、冗談」

司会者も観客も笑い盛り上がる。それに密かにガッツボーズ。

「しかしお前ら普通に考えたらボケとツッコミ逆っぽいよな」

「そうですかぁ?」

「夜は俺が色々な意味で充に突っ込んでいるで問題ないですよ」

「な、っ?!」

やっとまともに話をしたと思えばサラリととんでもない発言をしやがったなっちゃん。
その発言に俺は慌て狼狽え、司会者の先輩達は固まり、観客席からは本日一番大きい黄色い悲鳴が上がった。その耳を塞ぎたくなる程の悲鳴にいち早く正気に戻った俺は、すぐに反応を返す。

「いやん。なっちゃんってば。それは二人だけの秘密でしょ?」

「そうだったのか?すまん、知らなかった」

チッ、この野郎。何をいけしゃあしゃあと…。ふざけやがって。
確かに観客の反応は意外にも良かったものの、その発言は流石にない。有り得ない。冗談が過ぎる。
俺は場の雰囲気を壊さぬように笑みを浮かべたまま、適当に話を流した。そのお陰で先輩達はそこまで深く訊いて来る事はなかったが、俺は腹の底で怒りのボルテージが最高潮を迎えるのを感じて、後で絶対ぶん殴ってやると心に決めたのだった。



*****


「おい、なっちゃん!さっきのどういう事だよ?!」

「充。キャラが崩れてるぞ」

「誰も聞いてねぇから大丈夫だっつーの!」

先輩達に挨拶回りも終わり、俺は楽屋に入るなり唾が掛かる勢いで近くに居るなっちゃんに怒鳴りかかった。確かにこの部屋には俺達二人しかいないが、冷静に考えてみると、外に居る誰かが万が一聞いてしまったら大変な事になるので、俺はチッと舌打ちをして声をほんの少し潜めた。

「いくら何でも冗談が過ぎるだろ」

「でも観客にはウケてた」

「そ、それは…」

「それにこれも売れるためのキャラ作りだ」

充だってそうだろ?そう訊かれれてしまえば押し黙るしかない。
売れるためにキャラ作りで俺が演じている“チャラ男”。これが意外にもインパクトもあって、視聴者のウケもいい。そのため仕事では専らこのキャラを演じている。なので俺のこの口の悪い素の姿を知っているのは、目の前に居るなっちゃんと他極僅かだけだろう。中学での同級生が覚えていなければなっちゃん一人だけだと言っても過言ではない。俺のキャラ作りは徹底的だから(高校の時から訳有ってチャラ男を演じていた)。

「もし本気で仲を疑われたらどうするんだよ?」

「その時は責任取って嫁に貰ってやるから安心しろ」

「…ば、馬鹿じゃねーの!安心出来るか!」

アホ!変態!そんな言葉を顔を真っ赤にしながら喚かれても大した効果もないのだろう。なっちゃんはいつものように笑みを零しながら俺の頭に手を伸ばして、髪の毛を掻き混ぜるように優しく撫で上げた。

「顔が赤いぞ?」

「……しね」

照れているからとかではなく、なっちゃんが俺を怒らせるから俺の頬は熱いのだ。そう自分に言い聞かせながら、撫でられる気持ち良さに俺は静かに目を閉じた。


後日ネット検索して出てきた「成瀬×充」というフレーズの意味を知って俺の怒りが大爆発したのは、言うまでもないだろう。



END

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