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もしも俺が、未来の出来事を予測出来ていたのなら、絶対に落ちていた生徒手帳なんかを拾わなかっただろう。

もしも俺が、過去に戻れる能力があるのなら、それをフルに活用して、生徒手帳が落ちている場所には二度と近寄らないだろう。



「……はー」


だがそんな夢みたいな能力を俺なんかが持っているわけがない。俺は泣きそうになりながらも、近くに居る男には聞こえないように今日何度目か分からない溜息を吐いた。



そう。
事の始まりはほんの一時間前に遡る…。









「先食ってて!」


一緒に昼飯を食べている友達にそう言い放ち、四限目の授業が終わるや否や、俺はすぐさま教室から飛び出した。もちろん売店に向かうためだ。売店に売ってある惣菜パンや菓子パンはとても人気があるため、こうして授業が終わったら走って行かないとパン一個すら買えないときもあるのだ。
それほど売店のパンは上手い!

それに不本意ながらも、俺は他の人よりもほんの少し、本当にほんの少しだけ身長が低いため、他の人以上に急いで売り場へ行かないと、パンに手を伸ばす事すら出来ないのだ。
本当に少し低いだけだけどな!


「うー、間に合うかなー…」


今日の四限目の授業は終わるのが少し遅かった。それに加えて俺は足が遅い…。


「………」


身長も低くて足も遅いなんて、本当に最悪だ。
こんな事なら友達に頼めば良かったかもしれないと後悔する。だけど自分の昼飯のために友人を走ってパシリにするなんて気が引けるから出来そうもないけど…。


「…いや、田嶋くらいならパシリにしてもいいかもな」


俺の身長の事を一番からかう奴だ。
罰として一週間くらいパシリに扱っても許されるかもしれない。よし、帰ったら期間限定のパシリに任命してやろう。そう思いながらやっと辿り着いた売店には、予想していた通り人がうじゃうじゃ居る。



「…間に合わなかった」


本当についていない。
今週はこれで二回目だ。間に合わなくて昼飯を食べそこなう事を想定してコンビニでおにぎり一つは買っているものの、俺は食い盛りの男子高校生。
…握り飯一つで腹がふくれるかー!


「くそー…。もういいや、田嶋の弁当食ってやる…」


もうこれからは全ての鬱憤は田嶋で払ってやろう。
そう心に決めた瞬間だった。
俺は来た道をとぼとぼと歩きながら教室へ戻る。



「……あ、」


そして俺は廊下に落ちている生徒手帳に気が付いた。行くときはなかったはずだが、もしかして落とし主も売店に向かった一人なのだろうか。


「ふむ」


きっとそれなら落とし主もパンに手を伸ばすことすら出来なかった一人だろう。俺が見た時でさえ大勢の人が居たのだ。そうに違いない。
俺は変に同族意識が芽生えて、落ちていた生徒手帳に手を伸ばした。



「…えーっと、生徒手帳を落としてしまったドジっ子は誰かなーっと」


女の子だったらいいなー。
それに加えて年下である一年生であったら更にナイスシチュエーションだ。これで恋が芽生えたりしないだろうかと淡い期待を抱きながら俺は名前と写真が貼っている頁を見た。


「……っ?!」


…そして俺はその頁を見た瞬間、驚きと恐怖で手に取った生徒手帳を落としたのだった。


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