「……」
「……」
お前は邪魔だ。殺してやる。と言わんばかりの殺気が恋の向こう側に居る男から降り注がれる。嫌でも気付くその鋭い視線には目を向けず、俺は田嶋を見ずに口角を上げて笑った。
俺が易々と危険な獣の近くに、恋を一人にするわけねぇよ。
「なぁ、竜輝」
そんな田嶋と俺の様子には一切気付いていない鈍感で可愛い恋は、俺の隣に腰を下ろして疑問をぶつけてきた。
「何だ?」
「女の子、嫌いなんだろ?」
「…ああ」
「教室に来て大丈夫なのか?」
誰にもバレないように配慮してくれているのか、恋は俺の耳元で小さく喋る。恋の吐く息が耳に掛かり、妙にくすぐったくて心地が良い。
「俺の事心配してくれてるのか?」
「…は、ぁ?!」
「そうなんだろ?」
「ち、違ぇし!調子に乗んな馬鹿!」
ここで「オタク」とは言わずに「馬鹿」と言うあたりが恋の良い所だ。
「…竜輝、教室に行くのは死んでも嫌だって前に言ってたじゃんか…」
「……」
そうだな。
五月蝿くて馬鹿で自分本位な考えしか持っていない女共が居る教室なんて死んでも行きたくなかった。
…以前はな。
だが今は違う。
守ってやりたい存在が出来たから。
「………」
その相手に熱い視線を向けてジッと見つめれば、「…な、なんだよっ」と、困惑した態度を取られた。そんな姿でさえも愛おしく思ってしまう俺は、恋にとことん惚れているのだろう。
「…理由なんてどうでもいいだろ」
「で、でも、」
「ようは俺が教室に来て、恋が嬉しいと思ってくれたのかどうかだ」
「……はぁ?」
「何だ?はっきり言えよ」
「別に…、」
「あ?」
「…っ、ぅ…ああ、思ったよ!竜輝が教室に来てくれて嬉しいと思ったよ!何だよ、馬鹿!変態!こんな事言わすなよな!正直に言えば満足かよ?!」
「ああ、すげぇ嬉しい」
真っ赤に染まった恋の頬。
とても美味そうだ。おもいきり噛み付いてやりたい。だがそんな事をこの場で実行するわけにもいかず、触れるだけで我慢しようと手を伸ばせば、…田嶋からその手を叩き落された。