後ろの席で眠っている竜輝。
俺は竜輝を起こさないように最善の注意をしながら、黙々と勉強をする。カーテンすらないこの教室には暖かい夕日が降り注がれているため、気を抜いたら俺まで寝てしまいそうだ。…そう、俺も眠たい。
「でも…寝たら、駄目」
そう思うと余計に眠たくなってくるという罠に陥ってしまった。ここまで一人で復習することが出来たんだ。あと二頁で終わる。気を引き締めて終わらせてしまおう。
「……、」
だけどやっぱり眠たい。竜輝が起きる前に俺も十分だけ寝てもいいだろうか。…俺はクルリと後ろを振り返ってみる。
やはり竜輝はまだすやすやと気持ち良さそうに眠っている。
「竜輝…」
俺はこんなにも眠気と戦っているというのに。自分だけ気持ち良さそうに眠っているなんてずるい。
「竜輝、起きろよ」
小さな声を出して竜輝に声を掛けてみる。だが竜輝は一向に起きてくれない。
「竜輝ー」
勉強、俺に教えてくれよ。
俺は若干いじけながら竜輝の髪の毛を弄くる。悪戯心で少しだけ強く髪の毛を引っ張ったりするものの、やはりというべきか竜輝は起きてくれない。
「…起きないと、怒るぞ?」
何だか相手をされない子供のような気持ちになってきたじゃないか。こうなったら意地でも起こしたくなってくる。だけどただ身体を揺さぶって起こすのは面白くない。
「顔に落書きするぞー」
竜輝の耳元で息を吹き掛けながらボソッと囁いてみる。すると一瞬竜輝の身体が反応した。…おっ、効果有りだ。…何だか楽しくなってきた。
「竜輝、」
起きないと、
「ちゅー、するぞ」
再び耳元でそう囁いた後、俺は少しだけ後悔した。というか、俺何をしてるんだろうと我に返った。
ちゅーするとか野郎相手に言っているんだろうか。ああ、もう。恥ずかしくなってきた。
違うからな。頬が熱くなってきたのは夕日の所為だからなっ。俺は誰かに弁解するように、そして自分に言い聞かせるようにそう心の中で呟いた。
顔、洗ってこよう。
何だか竜輝と二人きりで居るのが妙に恥ずかしくて、俺は逃げるようにその教室から飛び出した。
「……っ、」
そして一人教室に残された竜輝の頬も俺と同じように赤く染まっていたことなんて、ましてや随分前から竜輝が目を覚ましていたことなんて俺は知る由もなかった。