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 チャラ男会計の受難

『なっちゃんをおちょくり隊!』
チャラ男会計の受難/成瀬×充


生徒会の仕事が一段落したので、久しぶりに途中からクラスに顔を出す事にした。
そうすればクラスの奴らは(主にチワワのような可愛らしい人達)、大きな瞳をキラキラと輝かせて、控え目ながらも騒ぎ出す。それにチャラ男らしくニヘラと締りの無い笑顔を浮かべて手を振れば、その他大勢も含めて「キャー!」だの「うおー!」だの悲鳴を上げだした。

「………」

何というか、うん。
…チャラ男会計の力恐るべし。


そして今は五限目が丁度終わった所。
何処かしらから突き刺さる大量の視線が痛くて、それから逃げるように机に突っ伏して寝ている振りをしている最中だ。クラスに親しい人が居ないため、寝ている振りが凄く上手くなった気がする。人に誇れる特技ではないが、もはやプロ並みとも言えよう。
そんな時にこんな話を小耳に挟んだ。

『最近成瀬先生機嫌悪いよねぇ』
『うん、確かに。めっちゃピリピリしてる』
『僕はこの前なんか怒鳴ってる所見たよ』
『えー?こわー…っ』

…ほう。
なっちゃん最近機嫌が悪いのか。
そういえば此処最近なっちゃんに会ってないな。生徒会室に籠ってばかりだから授業はおろか、ホームルームすら出ていなかったからか。

少し様子を見に行って来よう。
そして隙あれば余裕の無いなっちゃんをからかって来よう。



*****


初っ端から機嫌を損なわせないよう控え目にノック。そうすれば数秒後に気怠そうな返事が返って来た。
…多分居留守にしようか一瞬迷ったんだな。こんにゃろう。
ま、遠慮なく入るけど。

「お邪魔しまーす」

「…愛、咲?」

「やっほー。来ちゃったぁ」

手を振りながら近付けば、なっちゃんは驚いているのか目を見開いている。
なっちゃんのそんな表情はレア物だ。

「どうした?何かあったのか?」

「ううん。なっちゃんの顔を見に来ただけだよぉ」

あとは弱味を握りに。
というのは言葉せずに、にっこりと笑みを浮かべた。

「はーい、これどぉぞー」

そして間髪入れずに、なっちゃんの右手の掌の中にある物を握らせるように持たせた。

「…飴?」

「うん。疲れた時は甘い物に限るよね」

「貰っていいのか…?」

「もっちろーん」

俺の親友こと親衛隊長から見せて貰ったある一部の文献から、チャラ男会計は甘い物を好んで食べたり、持ち歩いているという事を知ってから、苺ミルク味の飴玉を持ち歩く事にしている。つまりこれもチャラ男会計としての嗜みという訳だ(何故苺ミルク味かというと、売店で一番安かったから)。
暫くその飴と俺の顔を交互に視線を彷徨わせたなっちゃんは、「ありがとう。大事にする」と言って、スーツのポケットの中にそれを仕舞い込んだ。

…あれ今食べないんだ?
というか大事にするって何?賞味期限がある食べ物だぞ?
それともあれか。大事に食べるという意味か?

まぁ、甘い物が嫌いなら無理に食べず捨てて貰ってもいいけれど。

「最近機嫌悪いみたいだね」

「…知ってたのか?」

そう言ったなっちゃんは、眉間に皺を寄せて、それは深い深い溜息を吐いた。
それに対し俺は「まぁね」とだけ返す。

「お仕事忙しい感じ?」

「仕事もだが、厄介事がとにかく多い」

「厄介事…?」

「編入生絡みだ」

編入生絡み。
その言葉だけでなっちゃんの言いたい事の大半が分かってしまった俺は苦笑いを浮かべる。
編入生が自ら引き起こす事件もあるが、それに風紀が借り出されて役員が機能出来ていないのをいい事に、強姦や制裁などの厄介な事件を引き起こす馬鹿が多いのが恥ずかしながら今のこの学園の状況だ。

「それに、」

「…ん?」

「誰かさんは教室にすら顔出さねぇしな」

「へ?」

それはもしかしなくても。
…俺の事か?
どう反応を返していいか分からずに首を横に傾げていれば、ニヤリとそれはもう悪どく笑ったなっちゃんが俺の頬を引っ張ってきた。

「ッ、いふぁいっ、いふぁいよぉ…なっひゃん」

「おー。伸びる伸びる」

「はーなーせー!」

「ははっ、柔らけぇ」

なっちゃんの腕をバシバシッと叩いて抵抗するものの離してくれない。

「最低でも一日に一回はこの馬鹿面見せろよ」

「…馬鹿面じゃないもん」

「お前は俺の唯一の癒しだからな」

「な、何それ…?」

「そのままの意味だろ?」

…やっと頬から手を離してくれた。
地味に痛かった。

というか、そのままの意味って…。


「教師が一人の生徒に贔屓しちゃっていいの…?」

「ばーか。教師だってまず一人の人間だ」

「ふ、ふぅん。まぁ、嬉しいからいいけどねぇ」

先程頬へ痛みを与えてきた手と同じとは思えない優しい手付きで、なっちゃんは俺の髪の毛を掻き混ぜる。頭を撫でられるのは意外に気持ちが良いけれど、子供扱いされているようで少し苦手だ。
ただ目の前の人物をからかいに来ただけなのに、どうしてこうなった。
でもなっちゃんが満足そうだったので、その手を払わず何も言わず撫でられ続けてやった俺は寛大な心の持ち主だと思う。


END


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