一万円・番外 | ナノ

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へたれ?(ど変態)高瀬注意!甘々






とても平和で穏やかな日常。俺と高瀬は恋人同士なんだけれど、そんな大きな喧嘩をしたことはない。多分これからも喧嘩などはすることはないだろう。俺が言うのもなんだけれど、高瀬は俺に優しいから。高瀬が俺に本気で怒ることはないのだ。

だけどたまに喧嘩以上に厄介な事になることもある。そして今日はおそらくその日。事の切っ掛けは、俺の発言からだった。


「あ!葵、それ取って」

「……あ?」


そうこの一言から、今日の騒動は始まった。



「……え?」


目を見開き、驚いて固まっている高瀬。俺は何かおかしな事を言ったか?そこにある醤油を取ってほしくてお願いしただけなんだけど、そんなに驚くことかな?


「俺、変な事言った?」

「……っ、」

「…え?な、何?気に障るようなことしちゃったか?」


みるみるうちに赤く染まっていく高瀬の顔。今では耳まで真っ赤になっている。そんな高瀬の様子を見ていれば、高瀬は俺から視線を少しずらすと、ボソボソと呟くように話してくれた。


「…今」

「うん?」

「今、仁湖…俺の事、」

「…?」

「…葵…って呼んだだろ?」

「へ?!」


“葵”?!
いやいやいや、ないないない。高瀬の名前を俺が呼んだ?う、嘘だ、そんな恥ずかしいこと俺が出来るわけないじゃないか。


「よ、呼んでないよ俺っ」

「…呼んだんだよ…っ」

「う、嘘…」


高瀬につられるように、俺の顔も次第に熱くなる。きっと目の前に居る高瀬と同じように耳まで赤くなっているに違いない。


「ほ、…本当に俺、高瀬の名前呼んだ?」

「っ、…ああ」


高瀬の表情や様子からして、おそらく本当に俺は高瀬の名前を呼んだのだろう。うわー、俺無意識に「葵」って呼んじゃったのか…っ。
は、恥ずかしい。

いや、本人目の前に呼んだのは初めでではないけれども、呼ぶつもりで呼んだわけじゃなかったし。指摘されると、凄く恥ずかしいなこれ…っ。


「ご、ごめん」

「…何で謝る?」

「あのさ、」

「…?」

「自分が気付かない内に自然に高瀬の名前呼んじゃったのはさ、…た、多分、日頃の練習の成果が出たんだと思う…っ」

「練習……?」


…こ、これは本当に高瀬に言うべきだろうか。やっぱり言わないほうが良かったかも。だけどここまで言って最後まで話さないのもあれだし、俺は拳をギュッと握り、意気込んで言葉を続ける。


「高瀬の名前を自然に呼べるように、…家でこっそり練習してたんだ…っ」

「……っ、」

「だから、多分、無意識に、葵って、呼んじゃったんだと思う。……ごめん」

「………」


ううー、何だこれ。
今なら羞恥で死ねるような気がする。というか、もういっそ誰かに殺してほしいくらい恥ずかしいぞ、これ。ああ!やっぱりカミングアウトしなきゃ良かった!
人の名前を呼ぶのに著作権なんてないと思うのだけれど、部屋でこっそり高瀬の名前を何百回、何千回と口にしていた事を本人目の前に話すなんて、…何という羞恥プレイ…。きっと高瀬だって俺のきもさに引いているに違い、ない…。
俯いていた顔をそっと上げて、目の前に居る高瀬を見上げてみれば……、鼻血を床に零しながら悶えている高瀬が居た。


「う、わ…?!」

「………、」

「ちょ、た、高瀬!は、鼻血?!」

「ああ、仁湖可愛い。可愛いっ」

「……は?ちょ、それより上向いて…っ」


何で今、可愛いって二回言った?!いや、俺は可愛くないよ!!きっと高瀬の目おかしいよ。俺は眼科を勧める!俺はそう思いながら、近くにあったティッシュで高瀬の鼻を押さえてあげる。


「俺、もうこのまま死んでもいいかもしれねぇ」

「……え?!」

「これがいわゆるキュン死にというやつか…」

「ちょ、高瀬、大丈夫本当に?!」


ぶつぶつと高瀬の口からとんでもない台詞が出ていることに、俺は本気で焦る。本当に高瀬の事が心配だ。いや、鼻血というか…高瀬の頭が心配…。

俺の発言でこんな事態を招いてしまったのだが、やはりこれは喧嘩とかそういうのよりも厄介だと改めて実感した一日だった…。



END


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