一万円・番外 | ナノ

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<内容>
・一万円(以前書いた「偶然ではなく必然」の続きみたいなもの
・本編の時間軸は「一万円 -1-の序盤」くらい
・まだ初々しい高瀬
・変態高瀬視点
・注:仁湖はまだ高瀬のこと好きではありません。むしろ恐怖の対象。


以上の内容が大丈夫だという方は、どうぞよろしければスクロールお願いします。







「…あ、…葵ちゃん?」



この思いを心の中に秘めて、そっと仁湖を傍目から見守ることに決めていたのだが、これは運命なのか、はたまた奇跡なのだろうか。
目の前には俺の頭の中の100%をも占めているだろう、中村仁湖が居る。初めて見掛けたときから、ずっと思い続けてきた。起きたときも、飯を食っているときも、オナるときも、夢を見ているときも、ずっとずっとだ。

そんな相手が俺の隣の席に座っているのだ。
同じクラスというだけでも柄になく舞い上がってしまいそうなくらい嬉しいのに、その上隣の席…。

しかも仁湖は俺の名前を知っていた。
俺の名前をあの小さくて柔らかそうな桃色の唇で呼んでくれた。



「…ちゃん、……って何だよ?」



しかし何故男の俺を「ちゃん」呼びなのだろうか。意味が分からない。もしかしたら親しみを込めて呼んでくれたのだろうか。
……だが仁湖の様子からはそうは伺えない。

この慌てた様子、…思わず口に出てしまったようだ。
もしかして俺の名前だけを見て、女と間違えていたのだろうか。



……むかつく。



仁湖が俺を見てくれたのは嬉しい。
仁湖が俺の名前を呼んでくれたのは嬉しい。
だが女と間違われていたのなら、…これほど悲しいことはない。



「…………」


俺はずっと「中村仁湖」だけを思い続けているというのに。このままでは完璧独りよがりではないか。
“傍目から見守るだけ”なんて、…本当は嫌に決まっている。
何て俺は強欲なのだろうか。クラスが一緒なだけで、席が隣なだけで、自分の名前を呼んでもらっただけで、十分過ぎるというのに、……まだまだ足りない。


そのふっくらしている桃色の唇に噛み付いて吸い付いて、息が苦しくなるくらい濃厚な口付けをしたい。息切れ切れのか細い声で名前を呼ばれたい。
そう邪な事を考えながら仁湖の横顔(主に唇)を見つめていたら、急に仁湖も俺の方を見てきた。



「………っ」


仁湖の息を呑む音が俺にまで聞こえてきた。
このまま時間が止まればいい、なんて似合わない事を思いながら、俺は仁湖の表情を脳裏に焼き付けていく。

すると何故か仁湖の表情がクシャっと歪んだ。
目元に涙を溜めて、瞬きでもしてしまえば今にも大粒の滴が零れてしまいそうなくらいに、泣きそうな表情をしている。



「…………」



…何て表情をするのだろうか…っ。
ああ、エロい。いやらしい。可愛らしい。
涙を溜めた大きな瞳にむしゃぶりつきたい。
泣かせたい。だけど悲しませたくはない。

俺はこれ以上仁湖の泣きそうな顔を直視出来る自信がなく、仁湖から視線を逸らした。


俺は自分の所為で声を震わせて明日の連絡をする教師の声も、ましてや仁湖の心の声も聞こえないくらい興奮しながら、授業の終わりの鐘と共に教室を出て行った。



明日からの学校が、すげぇ楽しみだ…。




END


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