一万円・番外 | ナノ

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タカニコ/仁湖誕生日/エロ無し/甘々




●高瀬side






急げ、急げ、急げ。
足がもげたっていい。

……だから、頼むから間に合ってくれ。



6月6日は、俺の最愛の人。中村仁湖の誕生日だ。忘れるわけがない。一ヶ月前から仁湖の誕生日に何をするのか考えていたくらいだ。

高級レストランに連れて行く。
何処か旅行に行く。
高価な物をあげる。

…色々な案を考えたのだが、何故だかどれもしっくりこなかった。刻々と仁湖の誕生日は近づいているというのに、俺は脳内で考えるばかりで何も実行出来そうになかった。

そして時が待ってくれるわけもなく、今日は6月5日の仁湖の誕生日前日。……俺は何も用意出来ていなかったのである。


「…最低だ、俺」


仁湖が大好きだ。愛している。だから幸せにしてあげたい。仁湖が産まれたこの日は俺にとっても幸せな日だから、仁湖が喜ぶことをしてあげたかった。


……だが現実はどうだ。



「……っ、クソ、」


俺は未だに仁湖に会えないまま、刻々と迫る時間に焦りながら全力疾走で走っていた。只今23時50分。

不幸は重なるものだ。
寝過ごした。
バイクは故障中。
タクシーに乗りたくても渋滞中。
一番に仁湖におめでとうと言いたくて急いで家に出てきたから携帯すらも忘れた。


「…間に合えよ、糞野郎…っ」

急げ、急げ。
何も用意出来ていないが、せめて仁湖の顔を見て一番に誕生日を祝ってあげたい。何も用意出来ていないと知って飽きられてしまうかもしれないが、そんなことどうでもいい。
…早く仁湖に会いたい。仁湖にこの言葉を伝えたい。
滴る汗を拭う暇すらなく、俺は走り続けた。


「……仁湖、」


…そしてやっと仁湖の家の前に着いた。インターホンを押す。
こんな夜中に不躾かもしれねぇが、今はそんな事に構っている暇はない。仁湖に会いたい。早く会わせろ。
…焦りながら舌打ちをしていると、仁湖は暫くしてから俺の前に現れた。


「…た、かせ…?どうしたのこんな時間に、……わ…っ?!」

「…仁湖……っ」


良かった、間に合った。
0時0分。なんという奇跡。
俺は嬉しくて仁湖の顔を見た瞬間、抱き付いた。


「た、かせ?」

「仁湖、…誕生日おめでとう。」

「………あ、…俺の、ため…?」

「悪い、…何も用意出来てねぇ。だが一番に仁湖に会って伝えたかった。」


正直に何も用意出来ていないことを話すと、仁湖は一瞬キョトンと呆けたような表情をした後、嬉しそうに頬を緩めて柔らかい笑みを浮かべてこう言った。


「…高瀬が来てくれたことが、最高の誕生日プレゼントだよ。」

若干頬を赤く染めて嬉しそうに笑う仁湖の顔を見て、改めて俺は仁湖に惹かれた。


……やっぱり俺は仁湖が好きで好きで堪らない。



END


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