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草と土と、そして頬の色
<内容・注意書き>
・この話は二人が付き合う前の話です。
・ちなみに一万円の本編、第一章の「不法投棄はいけません」の後の話です。
・高瀬に投げられた教科書の行方の話です。
・本編を見ていない方は、覚えていない方は、こちらから宜しくお願い致します。
・仁湖が若干ツンデレ気味です。
・高瀬はいつも通り変態です。(ここ重要)
以上の内容が大丈夫だという方は、どうぞよろしければスクロールお願いします。
「無いな…。」
高瀬の手によって投げられてしまった、友人の教科書。おそらくここが落下地点だろう。
…だがいくら探しても、投げられた教科書は見つけられない。
「…何で、投げたんだよ…あいつ。」
教科書を忘れたから、見せろ。と言ってきたのは高瀬の方だ。だから俺は友人から教科書を借りてきたのだ。机をくっ付けて、一冊の教科書を二人で見るより、一人で見たほうが見やすいと思ったのに…。
「しかもよりによって、借りてきた方を投げ捨てるだなんて…。」
高瀬に貸したのは俺の教科書。友人から借りた教科書を、高瀬にボロボロにされるのが嫌だったから、俺は自分のを貸したのだ。
…それなのに、何でわざわざ選んだかのように、友人の教科書を窓から投げ捨てたのだろうか?
偶然だよな…?
「…しかし、見つからないな。」
草刈をあまりしていないからか、枝葉を広げて生え重なっている。
もしかして草で見えないだけなのかもしれない。俺はそう思って、草を手で分けて、奥まで探す。
…だが、やはり見つからない。
「どうしよう…」
青かった空は赤色に染まり、そして今は段々と暗くなっている。
このままでは、見つけられるものも見つけられない。本格的に暗くなる前に見つけ出さなくては…。
そう思って、もう一度教科書を見つけ出す作業を再開しようとしたところで、
「……おい。」
…と、低い声が背後から聞こえてきた。
俺は反射的に後ろを振り向く。
「た、…高瀬?」
…振り向いた先には、高瀬が居た。
まさか高瀬がこんな時間になるまで、学校に居るなんて俺は思いもしなかったから、凄く驚いた。
「ど、…どうしたんだ?」
「……これ、」
恐る恐る声を掛けてみると、高瀬は俺にある物を差し出してきた。
「…これって…」
俺は高瀬の手から差し出された物を見て、更に驚くことになった。
…だって、これは探していた教科書じゃないか…。
何で高瀬が持っているんだ?
「……投げて、悪かった…」
俺は再び驚く。
高瀬は投げた教科書を探していてくれていたようだ。
…し、しかも、高瀬の口から謝罪の言葉が出るなんて…っ。
一体高瀬はどうしたのだろうか?
まさか、「探してやったから、金でも寄こせ!」と金を集られるのだろうか…?
…しかし、どうやらそうではなさそうだ。
額から滴り落ちている汗。
頬に付いた土。
土と草の汁で汚れている節ばった指。
真剣に探してくれていたことは、高瀬を見れば分かる。
…な、何だよ、不良のくせに…いい奴じゃんこいつ。
「…あ、ありが……、」
俺はわざわざこんな時間になってまで、教科書を探してくれた高瀬に感謝の言葉を告げようと思ったのだが、途中で言葉を止める。
待て待て待て。
確かにいい奴なんだろうけど、…よく考えてみれば、事の発端は高瀬の所為だ。
高瀬が最初から教科書を窓から投げなかったら、こんなことにはなっていなかったはずだ。
危ない危ない…。危うく絆されそうになってしまった…。
そうだ。俺は何も悪くないのだ。
俺は高瀬に感謝の言葉を言う必要なんてない。
……………。
で、でもやっぱり…、礼の一つは言うべきだろうか?
ひ、必要ないと思うのだが、…でも、高瀬は必死に探してくれたんだよな…?
…こんなに汚れてまで、…こんな時間になってまで…。
「…し、仕様がないから、…礼の一つくらい言ってやるよ。
あ、ありがとう。高瀬…っ。」
…って、馬鹿だろ、俺。
くりょう学園で、不良のトップに居る高瀬に、何て生意気な口を叩いているのだろうか?
きっと高瀬は、今の俺の態度に怒っているに違いない。
怒鳴られるかな?…最悪殴られるかもしれない。
俺は腕を盾にするようにして、身構える。
…しかし一向に殴られる気配もなければ、怒鳴る様子もない。
俺はチラリと、自分より幾分も身長の高い高瀬を見上げ見る。
…すると、
「……ツンデレな所も、
可愛い……っ。」
何故か口元を手で押さえている高瀬が視界に入る。指の間からは、赤くなった頬が見える。
「………は?」
高瀬の意味の分からない言動に首を傾げると、高瀬は俺に教科書を手渡すと、顔を真っ赤に染めたまま去って行った。
「…い、一体何だったんだ?」
やはり高瀬はよく分からない奴だな。
…でも生意気な口を叩いたことを怒られなくて良かった。
そして俺は手渡された友人の教科書にチラリと目線を向ける。
窓から投げられた教科書は、土が付いていたり、草の汁で汚れていた。
「……こんな汚れているの、返せないじゃんか…。」
一人になった俺は、ボソリとそう呟いて、汚れた教科書を鞄の中に入れ込んだ。
汚れているから返せないだけだ。
必死に探してくれた、高瀬と同じように汚れた教科書を見て、
愛着が湧いたわけでは、
……決して違う。END
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