▽ 犯人
俺は震えていた。
恐怖ではない。寒いわけでもないし武者震いをしているわけでもない。
何故か。
俺のお菓子がないからだ。
怒りと動揺が同時にこみ上げてしまったのだ。
俺は必死で開けた引き戸を握りしめて思考を巡らせた。
俺のお菓子は、チョコはどこへ消えたのか。そのうちの一つは期間限定のチョコだった。冬しか発売しないショコラだ。あとはファミリーパックのアルフォートチョコレートと、カントリーマームがあったはずだ。否、あった。買ったのは俺なのだから間違いない。
最後に見たのは昨日の夜だ。夕食後のデザートにそれぞれ一つずつ食べた。残りは今後の楽しみにとっておこうと思っていた。
それが、ない。
ファミリーパックの袋までもが丸々ひとつがない。
昨日の夜から今日の午後3時までに菓子棚と俺の菓子に一体何があったのか。
「誰かが食ったのか…?」
おのれ、俺の菓子をよくも、許せん。
俺は引き戸を閉めてズンズン歩き出した。とりあえず聞き込みだ。俺は縁側にいるウルトラマンギンガの元へ向かった。
ギンガが俺の菓子を食うとは思えない。自分のものとテリトリーは守る男だ。が、念のため。
「おい。ギンガ」
「ん?どうしたんだ、ビクトリー」
ギンガはこの寒い中だというのに紺色に黄色のチェック柄が入ったマフラーと紺色のロングコートを着込んで縁側に座っていた。何を考えてこんなことをしているのか、よく分からない。
「俺の菓子を知らないか」
「知らないぞ。ないのか?」
「全部ない」
「それはそれは。だから気が立っているのか」
「俺の菓子」
「今日の昼に緑茶を作ろうと開けた時には、全部あったぞ」
「…そうか…」
ギンガが嘘をついていないとするならば、お菓子がどこかへ行ってしまったのは正午から午後3時の間になる。
俺は簡単に礼を述べてその場を立ち去った。
「…かなり怒ってるみたいだぞ」
ギンガはクスクスと一人で笑った。
★☆
続いて俺が向かったのは、大事な相棒のシェパードンの所だ。
温かいリビングのソファーで大の字で寝ている。相棒の腹をちょんちょんと人差し指で突くが、少し身じろぎするだけである。
「おい。シェパードン。聞きたいことがある」
少し肩を揺すると、シャパードンはパチリと目を開けて俺を見ると、ぐわー、と一声鳴いてソファーから起き上がった。
「俺が買ってきたお菓子なんだが、」
すると、「お菓子」という単語を聞くなりシェパードンはまた鳴いて大きな両手を上に挙げた。
「おやつタイムだ!」と言っているのだが、彼の言葉は俺にしか通じないため、傍から見ている者には「ぎゃー」としか聞こえないだろう。
「いや、それがないんだ」
俺が菓子棚のお菓子が消えたことを伝えると、彼は一瞬固まった。そして両手を下ろしてがっくりと肩を落とした。「なーんだ…」と言っている。
「シェパードン、お前が全部食べたってことは…」
念のため確認すると、シェパードンは首と両手をバタバタと振った。
「違う!」と否定している。
だよな、と俺は息を吐いた。彼は絶対にお菓子には自分から手を出さない。必ず俺と一緒に食べるからだ。
では、一体誰が食べたのか。
すると、リビングのドアがバタン!と勢いよく開いた。
「ビクトリー!」
「マイ!」
振り返ると、そこには人間の少女、マイがいた。同居人だ。
片手にはスーパーの袋がある。中身が透けているため見えてしまった。中身を見た俺は思わず立ち上がった。
「…菓子…」
「ビクトリーごめんなさい!あの、お菓子」
「犯人は貴様か…」
今にも尻もちをつきそうなマイを見下ろし、俺は仁王立ちした。
彼女は一生懸命口をパクパクさせているが、言い訳は聞く気はなかった。ソファーから降りたシェパードンが横で不満そうに鳴く。
「なんで食べたんだこのヤロー」と言っている。
「これにはね、理由があってね」
「は?」
「だから、話を聞いてよビクトリー!」
「ビクトリー、話を聞いてやれ」
半分涙目になるマイの後ろから、リビングの戸を開けてギンガが入ってきた。着ていたコートとマフラーを壁のコート掛けに引っ掛けて後ろから彼女の肩にポンと手を置く。彼女のフォローをしに来たみたいだ。
「昨日、友達が来たんだろう?」
「う、うん。そうなの。それで、お菓子を出さなきゃと思って」
「俺の菓子を出したと?」
俺の言葉にマイがたじろぐ。
「そう睨むな」とギンガがこちらを見る。
「お前はその時間にシェパードンと散歩に出掛けていたから知らないだろうが、5人くらい来たんだ」
「そうなの。だからお菓子をたくさん出しちゃって…」
「この家にXやゼロ、メビウスが来たら?」
どうする?とギンガは俺に問いかけた。
俺もマイと同じことをしたはずだ。
「俺も…」
「マイと同じことをするだろ?」
「…おう…」
「じゃあ、そんなに怒るな。その埋め合わせに買ってきたお菓子なんだし」
そうだろ?とギンガは彼女の横に立ち、首を傾げる。
「ごめんね。ビクトリー」
「…今度からは一言言うか、書置きを頼む…」
「うん。分かった。そうする」
「俺も悪かった。ごめん」
互いに謝ってから、シェパードンも謝罪代わりにマイの足に抱きついた。
「シェパードンもごめんね。一緒にカルパス食べよ」
マイは買い物袋からカルパスというお肉のお菓子を取り出した。シェパードンはこれが大好きなのだ。シェパードンは両手を上げて喜んだ。
彼女は嬉しそうに笑うと、俺たちの顔を交互に見上げた。
「おやつタイムにする?」
「そうしよう。ビクトリーは?」
「…おう…」
ギンガとマイに見つめられ、俺は首を縦にするしかなかった。
彼女がお茶を淹れてくると言うので、俺たちはソファーにテーブルを挟んで向かい合わせで座った。
居心地が悪いと感じている俺を見破ったギンガが口を開く。
「…罪悪感に浸ってるのか?」
「…まあ、そんなところだ」
「お菓子のこととなると、お前はいつも気が荒くなるな」
買い物袋から大袋のお菓子をガサゴソと取り出しながら、ギンガは呆れたような笑みを浮かべる。
「ほんとにねー」とシェパードンはソファーによじ登りギンガの隣に座る。
「だが、彼女と過ごすようになってからはお前も変わってきたな」
「そうか?」
「ああ」
彼女が買ってきた菓子の中には、俺が食べるはずだったカントリーマアムとアルフォート、それから期間限定発売のあのチョコが三つ入っていた。しかも全部味が違う。ショコラとイチゴと抹茶味だ。
俺は目を丸くした。前に買い物に行った時にはなかったものだった。
丁度飲み物を持ってきた彼女を見上げた。
「おい、マイ、これ…」
「あ。そうなの!ビクトリー、これの一種類しか買ってなかったでしょ?今日買いに行ったら味違いがあったの!これ好きでしょ?」
「お、う、すげえ気になってたやつ」
まじか、もう売り切れてるもんだと思って諦めてた。
俺は少し感動して限定チョコの一箱を持った。
「お皿に出してみんなで食べよ!」
「俺も手伝う」
「ありがとー」
大皿を出そうと、俺は彼女の後をついて行った。
「…やっぱり、変わってきたな…」
ギンガはビクトリーの背を見た。
「…それは、私もか」
彼女にも視線を移し、ギンガは小さく微笑んだ。
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謎設定です。
診断メーカーの結果から書いてみました。
ギンガは和菓子、ビクトリーは洋菓子が好きそうだなって思います。
「口あるの?」って言われそうだけどアニメ本編では口全く動いてないけど私の頭の中では口あけて喋ったり食べたりしているものだと思ってます。
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4/5